第37話【警備軍少将への報告】


 カクン、という軽い衝撃とともに微睡まどろみから目が覚めた。

 慌てて日差しを確認する。どうやら寝ていたのは少しの間だけらしい。

 隣のソファではリュオネが、アームにもたれて寝息をたてている。

 二人とも精神的な疲労がかなりたまっていたから、仕方ない。


「——ふう」


 とりあえず水を取り出して飲み干す。

 リュオネは、もう少し寝かせてあげよう。


……つかれた。


 第五出城のギルドマスター達と合流してからも、やることは山積みで休むひまがなかった。

 生き残っていた人が第四十字街に救援を求めにいっている間、残った僕らで大門周辺の死体を長城の外に運び出した。


 予想外に応援が早くきたのは、ちょうど第四十字街にオルミナさんとビーコがいたからだ。

 各所に伝令として飛んでくれたおかげで、たくさんの冒険者やギルド職員が集まり、短時間の内に第五中央出城の安全確保、調査、原状復帰などがされていった。


 そしてそれが一段落してからは質問ぜめだ。

 ある程度自覚していたけれど、【白狼の聖域】と僕らは金級冒険者の中でそうとう噂になっていたらしい。

 すでに疲労がたまっていたけど、彼らのあいさつを断るわけにもいかず対応した。


 そしてとどめにスズさんとゾフィーさんがビーコに乗って現れた。

 二人にこってりと絞られ、解放されたのがついさっき、そして寝落ちしたのだった。


「……あ、ごめん。ねちゃってた?」


 リュオネが目をこすりながら起きた。


「少しね。はい、水」


 まだふらふらしていたので、コップに注いだ水を渡す。

 リュオネは半目のまま口をつけ、少しずつ飲んでいった。


「ん、ありがと。まだブラディア王国の人から呼び出しは来てない?」


「ああ、僕も少し寝ちゃったけど、多分来てないよ」


 少し安心したのか、リュオネがゆっくりと伸びをした。

 もう皇族としての顔になっている。


「良かった。王国の事情聴取が終わったらようやく休めるね」


 臨時対策本部になったとある商会の一室で僕らが待機しているのは、このあと王国の担当者に現場にいた人間として事件の報告をするためだ。


——コ、コ、コッ。


 ノックに返事をすると、スズさんと制服を着た王国軍人が入ってきた。


「団長、副団長、聴取の席が整いました。本部長室までお越し下さい」


    ――◆ ◇ ◆――


 本部長室に入ると、厳つい口ひげをたくわえた男性がニカリと奥歯まで見えそうな笑みを浮かべて出迎えてくれた。


「やあ、プラントハンター。数ヶ月ぶりだな」


 王都で決闘をした時にお世話になったトレヴィル警備隊長だ。

 少将閣下直々に聴取されるとはきいていたけど、この人がその少将だったとは……。何かと縁のある人だな。


「おひさしぶりです、トレヴィル……閣下」


「トレヴィルさんで構わん。ブラディアが独立して組織が再編され、少将なんて肩書きをもらったが未だにこそばゆくてかなわん。閣下と呼ばれるのはこれが最後かもしれんしな。フハハハ!」


 それは国が亡くなるとか、そういう意味ですかね。

 こちらがなんとも言えない顔をしているとトレヴィル少将は笑顔を消して真面目な顔になった。


「さて、再会のあいさつはこれくらいにして、今回の件について聴取をはじめるぞ。本来はここのギルドマスターからきくべきだが、部下達を自らの手にかけた彼から直接聞くのは酷だ。君らが事件の最中に彼から聞いた内容と、その後の大門での戦いの終わりまでを聞かせてもらおう」


 その後、僕らはジェフさんからきいた、皇国軍の魔人が大門に入った所から【雪原の灯台】がフリージアさんを残して第五山岳砦に撤退した事、僕らが魔人になってしまったフリージアさんを倒すまでの事を話した。


「ふむ……【雪原の灯台】については第五山岳砦で休んでいた所を重要参考人として確保しているが、彼らを逮捕する必要があるな。金級冒険者は緊急時に第五長城壁の防衛をする義務があるからな」


 そう言うとトレヴィル少将は紙に何かを書き付け、部下に持っていかせた。


「【雪原の灯台】だけではなく、クラン【重厚な顎門】、【ハヌマー】のメンバーについても召喚状をつくった。先ほどザートが言った通り、【重厚な顎門】がなぜライ山の奥地にまで行ったのか知る必要がある。もっとも、捕まえられるか微妙なところだがな」


「どういう事ですか?」


「事前につかんでいた情報によれば、奴らは近く、アルドヴィン王国に向かうつもりだった。今回の件で、彼らが何らかの罰を受けるのは明らかだ。私が【ハヌマー】と【雪原の灯台】のリーダーなら捕まって面倒事になる前に王国に”飛ぶ”事を選ぶ」


 リュオネの質問に、少将はひげをよじりながら答える。

 それと同時にこちらに向かってくる足音が廊下から聞こえてきた。

 少将がひげをいじるのをやめ、まるでこれから起きる事を予測していたかのように、一つ大きなため息をついた。


「失礼します! 少将、第五山岳砦より報告です。【雪原の灯台】逃走! 手引きは【ハヌマー】の可能性が高いとのことです!」




    ――◆ 後書き ◆――


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