第38話【作戦コード:WH】
報告を受けたトレヴィル少将は手元にブラディアの地図を引き寄せた。
「最終確認から逃亡まで半時間、そこから地上の追跡を始め、今の時点で二時間経過か」
「折悪しく、定時連絡の竜騎士が飛び立ったのに前後して逃走が起きたため、報告に時間がかかってしまいました。申し訳ありません」
僕らはすでに邪魔にならないように壁ぎわに移動している。
報告している人がその竜騎士なのだろう。
装備がうちの竜騎兵隊のものとにている。
「それは言ってもはじまらん。陸上の捜索はすでに始まっているだろうが、空はどうだ? お前達のうち何体が捜索に入っている?」
「捜索専門は三体です。伝令のワイバーン三体も長城付近を探しています。ただ、もうすぐ夜になるので……」
竜騎士は少将の肩越しに窓の外を見る。
もう太陽はブラディア山のむこうに隠れ、夜のとばりがおりようとしている。
竜種自体は夜間飛行ができるけど、人間は夜行性じゃない。
捜索を続けるのは無理だろう。
「伝令を残し、空からの捜索は打ち切る。急ぎ王都にもどり、山岳地方の封鎖にあたれ」
相当難しくはあるけど、アルドヴィン王国の北方からブラディア山系にはいるのは不可能ではない。
犯罪者対策に、なんらかの封鎖方法はあるんだろう。
敬礼をして竜騎士が部屋から立ち去っていく。
僕らも帰ろうと思ったら、変わりに別の軍人が入ってきてしまった。
リュオネと顔を見合わせてため息をつく。
「刻限になったため地上より兵を引き上げました。今は長城壁上の側塔に待機しております」
地上も捜索が打ち切られるみたいだ。
強力な魔獣がいる場所で夜通し捜索などできないだろう。
「そうか。では、第四長城壁と第四中央路に均等に人を配し、脱走されないよう警戒にあたれ。コズウェイに脱出されるのは阻止せねばならん」
「承知しました。しかし、長城壁を警備するには人員が不足しております」
報告してきた軍人がチラリとこちらを見た。
え? 僕らはさすがに手伝えないよ?
「不足しているか。確かに、二百人ばかり足りないな……」
やたらと具体的な数字を口にしながら少将もこちらを見てきた。
いや、そんな目をされてもこちらはさっぱりだ。
——チラッ。
——チラッ。
——イラッ。
「それでは、僕達はこれで」
「いやいやまてまて! それはないだろうザート!」
理由不明のアイコンタクトに若干イラッとしたので立ち去ろうとすると軍人さんだけじゃなく少将まで立ち上がって引き留めてきた。
「それはないって言われても、僕達たった二人ですよ?」
今にもマントを引っ張りそうな勢いだった少将がけげんな顔をする。
「こちらもさすがにお前達に警備をしろとは言わんぞ? そうじゃなくて……なんだ、もしかしてお前達カミジ中尉からなにも聞いていないのか?」
カミジ中尉って……ああ、スズさんか。
スズさんにお説教をくらった時はなにも言われなかったけど?
こちらが理解していないのを悟ったのか、少将は落ち着いて椅子に座り直した。
「とりあえず、そうだな。話すより、そこの窓から見た方がはやいだろう」
少将がゆびさした三階の窓の下を見る。
そこには、第四長城外で活動している見慣れた装備の【白狼の聖域】混成部隊がひしめいていた。
「なるほど、確かに混成部隊は二百人以上いるからね……」
リュオネがため息をついて窓の外をみている。
「カミジ中尉が到着した後も次々に集まってきている。経費もだす。だからすまんが、防衛義務の一つとして警備をしてくれんか」
そういわれれば、やらないわけには行かない。
僕は少将に警備を行う事を約束し、簡易の契約書を取り交わした。
「じゃあ、急いでみんなに伝えようか——」
振り向くと、リオンは大きくうなずき、なぜか窓を大きく開いた。
「みんなお疲れさまー!」
惨劇の現場には不釣り合いに澄んだ声が響く。
直後にはもう喧噪の渦だ。
よかったとか、さすが姫様とか喜びの声が聞こえてくる。
普通に下に降りて説明するつもりだったのに。
そう、この人、お姫様だからバルコニーから演説なんて普通だと思ってるんだよね。
思わず片手で顔をおおったけど、しかたなく、僕もリュオネの隣に立って顔を見せる。
喜びの声に若干怒りの声が混じったのは気のせいだろうか。
「皆駆けつけてくれてありがとう。高い所から悪いが、王国警備軍より急ぎの仕事を受けた。長城壁の夜間警備だ。これから下に行って……」
話している最中に人垣が割れて、見慣れた女性達が顔を見せた。スズさんとゾフィーさんだ。
「説明の必要はありません。もういつでも出発できます」
「私達、言いたいことがあって団長達をまっていたんですよ」
スズさんの声は張り上げていないのによく通る。
普段から感情をあまりあらわさないゾフィーさんだけど、今日は特に無表情だ。
早めにつけられた明かりに照らされた顔がちょっと怖い。
二人がこちらを向いたまま、大きく息を吸った。
「「休暇にもどりなさい!!」」
二人の叱責を合図に、団員みんなから怒りの声が押し寄せてきた。
ほんと休め、とかデートコースとして最低とかひどい言われようだ。
思わず後ずさると、後ろから誰かに羽交い締めにされた。
「なっ!」
後ろを振りかえると、トラ耳を得意げに立ててニシシと笑うデボラさんの顔があった。
その後ろには衛士隊の面々がいる。
「団長と副団長、確保しましたぁー」
隊長のミワが下の人達に呼びかけると、なぜか拍手が沸き起こった。
なにこれ、いつから僕らテロリストになったの?
「りょーかい、そのまま持ってきて。ビーコの準備はできてるわよ!」
こうして僕らは衛士隊の皆ごと、オルミナさんたち竜騎兵隊に拉致されていった。
これが「ワーカホリック温泉地ぶっこみ作戦」というふざけたネーミングで計画された、クラン初の作戦行動であると知ったのは、僕らが温泉を堪能しただいぶ後の事だった。
――◆ 後書き ◆――
いつもお読みいただきありがとうございます!
シリアスからだんだんゆるい感じにしていきます。
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さらに飛躍をするため、今後もよろしくお願いします!
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