第53話【三章エピローグ——風雲急を告げる】


 たくさんの海鳥の声、軽快に動くタグボートの駆動音、近づくごとに大きくなる港の活況を表す声。

 久しぶりのグランベイ港はやはり活気がある。

 けれど、どこか緊張感があるというか、不穏なざわめきにも聞こえる気がする。


 それは、僕とリオンが目を離せずにいる、ふ頭の異質な一団のせいだろうか。

 皇国軍もムツ大使を筆頭に甲板に整列し、船が接岸するのを待っている。


 ふ頭にいる一団はギルド職員……もとい領軍の精鋭。

 空にひるがえるは長城壁に山と湖を描いた子爵領旗。

 中央に立つのは一組の男女。


「あそこにいるのって、ジョージさんとリズさんだよね……」

「だな……」


 ふ頭では、ジョージ・グランドル=ウルヴァストン子爵閣下らが皇国戦艦の到着を待っていた。


   ――◆◇◆――


「あらためまして、二人とも久しぶり。銅級三位だなんて立派になったわねぇ」


「きっかけはリズさん達にもらいましたからね。リザさんにもお世話になりました」


 僕らは子爵閣下と大使が会談をしている間、上甲板のテーブルでリズさんと近況報告をしあっている。

 アルバトロスのメンバーは一足先にギルドにビーコの再登録にいっている。

 真竜がギルド前にいるのだから、当然ギルド前は大騒動だ。

 騒動の声がここまで聞こえてくるけれど、結果はまた後でショーンにきこう。


 今、大使と船内の会議室で会談している子爵閣下は、辺境伯の特使としてムツ大使を待っていたそうだ。

 通常公式の会談には北岬砦内にあるグランベイ男爵の居館が使われる。

 その慣例をやぶり会談を希望するのだから、よほど急ぎの用なんだろう。

 ジョージさんは僕らに最低限の声だけかけ、あとにはリズさんが残って僕らの相手をしてくれている。


「まだ信じられないけど、リオンちゃんが皇族少佐の娘さんだったなんてねぇ。エンツォがきいたら卒倒するわ」


 そういえばエンツォさんは狼獣人だから、皇国人か。

 自分の宿で色々アドバイスしていた後輩が、実は自分の国の姫様だって知ったら、うん、びっくりするな。


「隠していて、すみませんでした」


 これまでの経緯を一通り話した後、リオンは耳をへたらせて謝った。

 ロングソードの件といい、色々よくしてくれたリズさんをだましていた事がやはり引っかかっていたんだろう。


「事情があったんだからいいのよ。その事情も、今回の航海で解決したんでしょう?」


 リズさんは何でも無いことのように笑って流してくれた。


「ええ。父と同じスキルを取得できたので、冒険者になった理由の半分は解決しました。あとは、ティルク人保護を目的としたクランづくりに本格的に取り組む予定です。ジョージさん……子爵閣下のクランづくりを記した資料がギルドにあったんで参考にさせてもらってます。本当は直接聞きたいんですけど……」


 そこまでいってリオンは足下に視線を落とす。

 その先にあるのは会議室だ。

 子爵はグランベイまで遊びで来たわけじゃない。

 しかもひどく急いでいた。

 のんびりと話を聞ける状況じゃないのは明白だ。


「ええ、確かに今は間が悪いわね……。しかもリオンちゃんが牙狩りとなると、特別に協力をお願いすることになるかも知れないし」


 奥歯にものがはさまったようなリズさんの物言いに不吉なモノを感じる。

 牙狩りの力が必要だなんて、それこそ異界門事変並みの大事が起きるという事じゃないか?


「リズさん、そろそろここに来た理由を教えてもらえませんか? ジョージさんと大使が話し合っている内容がリオンにも関係するなら、一刻もはやくききたいです」


 最初は公的な事だからと遠慮してきかなかった。

 けれど、リオンが直接協力を求められるというなら話は別だ。

 身を乗り出し強く迫ると、リズさんはうなずいた。


「もちろん話すわ。でも、まずは辺境伯からの申し出をきいた皇国大使からきくのが筋だと思うの」


 かみ砕くようにゆっくりと話すと、リズさんは横に控えていた領兵に合図を送った。

 少し待つと、階下から子爵と大使がゆっくりと階段をのぼってきた。

 二人で立ち上がり、リオンは二人に応ずるため前に、僕は斜め後ろに下がる。


 子爵が感情を表さないのに対して、ムツ大使の眉間に刻まれたしわが、事の深刻さを予感させた。

 端正な顔をゆがめ、への字に曲げた、今にも牙を見せそうなほどふるえている口を開き、大使が言葉を発した。




「申し上げます。殿下、辺境伯がアルドヴィン王国から独立する事を決めました」


「なっ——!?」


 報告された内容は予想をはるかにこえる深刻なものだった。





    ――◆ ◇ ◆――


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

三章グランベイ編はここまでとなり、次回より四章となります。


四章は国、勢力の入り乱れた戦争が話の中心となります。

途中にちょこちょことザート、リオン、クローリス、その他の面々のやりとりがされますので、重い話にはなりません。


ようやく話はザートの持つバックラーに向かいますので、その辺りも期待していただければ幸いです。


四章が一つの山場となります。

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