4章:クラン設立

第01話【四章——王国宰相から辺境伯への要求】



 辺境伯が——独立する?


「ムツ、経緯を説明してください」


 リオンが口の端をきゅっと結び、候主として大使に説明をもとめた。


「では会議室へ参りましょう。これはクラン”白狼の聖域”も関係するため、ザート様もご同席ください」


 クランも? 

 辺境伯の反乱とどう関係するんだ?

 いぶかしく思いつつ、僕も船長室の下の会議室に入った。

 リオン、大使、子爵、リズさん、僕が順に席に着く。

 

 皆の前にスズさんが飲み物をおいていき、一礼して扉から出て行った。

 これまでの経緯からして、スズさんは大使の側近だったようだ。

 ムツ大使の話が再開する。


「まず、宰相はやはり帝国との開戦を望んでいます。これは我々の予想と一致していました」


 バルド教と王国宰相が、帝国との戦争を望んでいる事は予想していた。

 辺境伯領は大森林地帯とレミア海の二つの面で帝国と接している。

 そのため、諸侯への兵の動員を命じる前に、辺境伯は何かを命じられるだろうと見ていたけど、ここまで早いとはリオンも大使も、僕も予測できなかった。


「リオン、いや失礼、ここでは殿下とお呼びすべきですね。先ほどムツ大使からうかがいましたが、殿下が宰相の動きを読んでいたとは驚きました」


 子爵が大きくため息をつき頭を下げた。

 これは……話をだいぶ盛っているな。

 リオンが居心地悪そうに大使をにらんでいるけれど、大使は素知らぬ顔で説明を続けた。


「現在、王国海軍の主力はバフォス海峡の反対側、王国本土のペリエール港にあります。これを第四港、コズウェイ港に移すため、港を直轄領とすると宰相は辺境伯に伝えてきたそうです」


 うん、ここまでは納得する。

 戦いの情勢によってはバフォス海峡が封鎖される危険もある。

 戦争である以上、ある程度の徴用はやむをえない。


「なるほど、続けてください」


 リオンが先をうながした。

 なかなか威厳があってかっこいい。

 普段のふわっとした雰囲気とは違う。


「さらに、王都までの陸路を確保するとして、コズウェイ港からグランベイ、ロター、さらに領都ブラディアまでも王家に譲る事を求めてきたのです」


 意外と激情家な大使がなげきため息をついた。


 なるほど、それは辺境伯ものめないな。

 ブラディアが凝血石の一大産地になったのは八代にわたるブラディア辺境伯家の努力によるものだ。

 さらにグランベイ開港以降はティランジアとの貿易にも力を注いできた。


 他の土地に移住させる転封でも納得しないだろう。

 これだけ価値ある土地以上に魅力的な領地はアルドヴィン王国にはない。

 

「辺境伯は長城の上を軍専用とするなど妥協案を出したそうですが、宰相は一方的に、諸侯により編成された王国軍が到着する前までに領都を明け渡すように命じたそうです。これは戦争にかこつけた暴挙といえましょう」


 話を聞いていて違和感が大きくなっていく。

 戦争は準備から開戦まで多くの時間を費やさなければならないのは、実家が商家だったせいで、僕も知っている。

 今回の件は皇国との同盟破棄と同じく、一方的で拙速だ。

 王国の宰相はなぜここまで急ぐんだ?


 僕が違和感を感じている間に、大使は話を締めくくろうとしていた。


「——このような経緯で、辺境伯は話し合いによる解決を諦め、独立し、王国軍と戦う決断をしたということです」


 会議室は重々しい雰囲気でみたされている。

 いくら辺境伯領が豊かでも、アルドヴィン王国全体と戦争するのは難しい。


「なるほど。わかりました」


 リオンはそういった後しばらく目を閉じていた。

 会議室で音をたてるものはなく、すぐ近くのはずの港の喧噪けんそうがやけに遠くにきこえる。

 

「では、ウルヴァストン子爵。特使として、辺境伯より命ぜられた内容をうかがいます」


 リオンは子爵に顔を向け、しずかに話をうながした。


「はい。辺境伯を返上し、建国を宣言したブラディア王は、ホウライ皇国皇帝陛下に、外洋艦隊を含めた軍事同盟を結びたいと考えております」


 静かに緊迫した雰囲気が会議室を満たしていった。




    ――◆ ◇ ◆――


いつもお読みいただき、ありがとうございます。


第四章は不穏な雰囲気のなか幕をあけました。

リオンの候主(※皇国では姫を候主と呼ぶ設定です)としての活躍が始まります。

ザートの影がうすくなりそうですが、そこは流れ次第ということで。


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