第43話【三刃の鞘、回収】
グランベイ港を出発してから四日がたった。
今遠くにみえるのは、王国のあるアルバ大陸とティランジア諸国があるレビ亜大陸を分けるバフォス海峡だ。
バフォスの街は海峡の両岸に広がっている。
そこから三デジィ西に行った場所に、今僕らを乗せた皇国の軍艦が錨を降ろしている。
「水深は三十ジィといった所ですね。かなり深いですが、大丈夫ですか?」
船艦から下ろした小さなボートの上で、測量をした船員が不安そうな目を向ける。
船乗りでも、趣味でなければ潜水するのは五ジィくらいだ。不安になるのも当然だ。
「ザート、敵にあった時の想定の確認をしっかりしていってね」
「エアバレルの残量は常に見ておいて下さいね。魔獣に閃光弾を使った時は念のため、一度海面に上がって下さい」
リオンが、不安からか手を白くなるまで握っている。
クローリスも自分が作った魔道具について何度も説明してくる。
「油断はしないけれど、ここに来るまでの間に水深四十ジィも経験している。水魔法での水圧管理も問題ない。魔道具も、エアバレルの交換も含めて練習した通りに使うよ」
いよいよ本番なんだという実感が湧いてくるな。
「それじゃ、行ってくる」
僕は水上で手を振り、海中にもぐった。
――◆◇◆――
(おぅ……)
海底が白い砂だからか、思ったより見通しは良い。
周囲の砂には船の残骸がそこかしこに転がっている。
(それにしても、あれが竜骨だろ? 船が原形とどめてないって、どんな海戦したらこうなるんだよ)
マストらしい円柱の向こうに、ゆるくカーブを描く木材が海底に横たわっていた。
(沈没船は二隻あるんだ。まずは片っ端から回収していこう)
クローリスから、”難破船の場合、海流の上流には重いものが、下流には軽いものがおちているはず”ときいている。
確かに、足下には小さな木片が散らばっていて、竜骨に向かって残骸が伸びている
周りに何かあるんじゃないかと思い、大楯でまとめて回収してしまう僕は貧乏性かもしれない。
こうしていくうちに、次第におちているのは大きな破片、食材の入った樽、チェスト、鉄製の武器となっていった。
(竜骨は……ハズレか)
竜骨の周辺を回って、ついでに竜骨自体も収納もしたけれど、”三刃の鞘”という名前のものは回収出来なかった。
となると、イカリか。
クローリスの世界にも、同じような状況で、イカリに身体をくくりつけて沈んだ騎士がいたらしい。
(一隻目はハズレだな)
イカリはみつかったけど、なにもついていなかった。
仕切り直しだ。
(と、バレル交換しなきゃな)
口元の、ラバ島で使ったエアバレルより大きな凝血石カートリッジをカチリと回す。
凝血石を6つ、リボルバー形式で交換出来るようにした改良型のエアバレルだ。
一度海面近くまで上がって残骸を探すと、右側に一筋、残骸の帯が続いていたので回収していく。
さっきのものより豪華な品が多い気がするな。
だとすると、こっちが本命の旗艦か。
海底を進んでいくと、ゴツゴツした岩が目立ちはじめ、とうとう岩の上に残骸が乗っている状態になった。
残骸の帯を見失わないように慎重に進む。
岩にはさまったホウライ刀を回収していると、水流が変化したような気がした。
(なんだ?)
風上に向かうように水流に逆らって進むと、岩に幅十ジィほどの裂け目があって、そこから大量の水が吹き上がっていた。
書庫からさっき回収した木片を数個取り出し、水流にさし込んでみる。
木片は複雑な軌跡をえがき、二個はあっというまに上っていき、一個が裂け目に吸い込まれてしまった。
こんな複雑な水流を大楯でさばけるだろうか?
いや、やめよう。
岩の裂け目に吸い込まれるなんてぞっとする。
興味本位で崖下をのぞき込むと、暗闇が口を開けていた。
(海ってこわいな、こんな所もあるなんて……ん?)
ふと対岸をみると、崖の中腹に不自然な人工物が見えた。
(おいおい、うそだろ?)
見つけた。
堂々としたイカリと、それにくくりつけられた皇国の鎧がある。
あの亡骸の人物が二人目の牙狩りで間違いなさそうだ。
それにしても、この水流の中どうやってあそこに落ちたんだ。
あれじゃ敵も味方も取りにいけないだろう。
目標を目の前にして壁にぶち当たってしまった。
大楯を手の平と平行にしてイカリまで届かせようとするけど、僕が今出せる大楯は十五ジィ四方だ。全然届いていない。
なにか手はないかと考えるけど、名案が思い浮かばない。
(くっ、いっそ大楯が伸びれば)
悔し紛れにそう考えた瞬間、大楯が拍動し、大楯の幅が狭くなっていき、大楯の先がずいと伸びていった。
これなら届く。上から下に腕を振るうとイカリと鎧を収納することができた。
大楯にまた新しい機能が追加されたな。
急いでたった今収納した物を確認しよう。
==
・イカリ
・皇国の鎧(所有者:コトガネ)
・遺骨(コトガネ)
・三刃の鞘(※※※)
==
(よしっ!)
三刃の鞘を手の中に取り出すと、0・3ジィほどの、模様が打ち出されている鮮やかな緑色の半鞘だった。
静かに握りしめ、目的のものが確かに手に入った事をかみしめる。
けれど、喜びは船にもどってリオンに渡すまで取っておこう。
大楯を延ばすという使い方も覚えたし、成果は十分だ。
このまま何もないうちに帰ろう。
そんなフラグを立てたのがいけなかったのか。
三刃の鞘をしまった所で、暗い海の底から白くて長いなにかが上がってくるのが見えた。
――◆ ◇ ◆――
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
訂正箇所が一箇所あります。
【訂正箇所】
※港の沖三十デジィは遠すぎるので三デジィに変更しました。
水平線までの距離を誤って覚えていました。
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