第6話【新人研修】

「よし、始めるか」


 そんなかけ声で気合いを入れて、野良着を着た僕は畑一面にはえている赤い大根を抜き始めた。

 なぜ大根を抜いているか。

 それは初心者は一ヶ月間、第一城外でこの様な単純な仕事しかさせてもらえないからだ。

 

「なんで冒険者になったのに農作業なんだよ。これじゃ田舎にいたときとかわらねぇよ……」


 となりの痩せた十四歳くらいの少年が文句を言いつつ、それでも僕より手際よく大根を抜いている。

 やっぱり農作業に役立つスキルとか持っているんだろうな。


 冒険者っぽい仕事ではないけれど、体力も装備もない食い詰め者がいきなり魔獣を倒せるわけがない。

 農作業は単純労働だけど、報酬は五千ディナと意外と悪くない。

 安宿で眠り、それなりに精のつく食べ物を食べても千ディナくらいは余る。切り詰めれば一日で二千ディナはためられる。

 一ヶ月もたてば健康な身体と初心者装備を手に入れた冒険者が仕上がるというわけだ。まさに新人研修。


――?


 視線を感じたので顔を上げると初老にはいるくらいの人がこっちをみていた。

 彼は冒険者を引退した人で、ここで新人の監督をしている。

 前を見るとみんなの背が遠くにみえた。



 監督が畝をまたいで近づいてくる。やばいかもしれない。


「おいお前」


「はい、遅れてすいませんでした」


 言われる前に謝る。

 やる気のない奴は下水掃除にまわされるらしい。


「お前には別の」


「下水はいやです!」


 監督に何言ってんだこいつという顔をされた。


「下水掃除じゃないからとっとと来い」


 背を向けてずんずんと領都の方角へと戻っていってしまった。

 下水じゃないならマンサナの実の収穫とか? だったらいいなぁ。


 監督は畑を過ぎ、果樹園を過ぎてしまった。

 どこまでもどるのこれ。


「おーい、モルじいさん。こいつ使えそうだがどうだ?」


 農機具小屋の軒でクワを研いでいた老人に監督が声をかけた。

 使えそうって何にさ?


「うん? ふむ……食うに困ってって風じゃねぇな。名前は?」


「ザートです」


「腰のそれはなんだ?」


 じろじろと見ながらボサボサの眉とひげを動かしてくる。


「バックラーです。……多分ですけど。冒険者だった親戚のおさがりですが」


 普通のバックラーは鉄張りの革盾で中央に膨らみがある、つば付き帽子のような形をしているけど、これは大麦の粒のように両端がとがっている。

 持ち手が片方に寄っていて盾に直角についているのも普通のバックラーらしくない。しかも後付けっぽく腕に固定する革ベルトがついてるし。


 ……これ本当にバックラーか?

 中等学院の実技で使っていた小型盾のバックラーに大きさが近かったのでそう呼んでいたけど、改めてなんだと聞かれると自信がなくなってくる。


 僕の様子をみていたモルじいさんの片眉が上がった。


「バックラーは剣を使う人間につかう装備だ。魔物ならまだしも魔獣には普通つかわねぇなぁ」


 え、そうなの? 





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