第44話【ロター要塞防衛戦】



「団長! 船は平気なのか⁉」


 ロター港につくった海上要塞の屋上に降り立つと、待機していたコリーが駆け寄ってきた。


「アルドヴィンのワイバーンが実用化した爆弾を落としたんだ。艦隊と竜騎士達ではイエローワイバーンの大編隊を撃退できない。だから全滅する前にコリー達が守るロターに戻ってきた。対空迎撃準備をしてくれ」


 状況と指示を伝える。

 砲兵として爆弾の試験にも参加しているコリー達第五小隊の隊員の顔面からは血の気が引いたけれど、コリーはすぐにニカリと笑って後ろの部下を見た。


「伝令兵! 対空迎撃準備! 一班から四班は長距離砲用二百ジィ中位水弾を用意して待機! 五班から八班は船上砲を格納、機関砲と三十ジィ中位土弾をありったけ弾薬庫から取り出してそなえろ!」


 伝令兵はすばやく動き、城壁上の装備をまたたくまに迎撃用の魔鉱砲に変更した。


「新ブラディアに応援の要請はするのか?」


 ワイバーンで応援を呼ぶことはできない。沖で戦っているのが全てだからだ。

 でも、ワイバーンがいなくても長距離砲で信号弾を発射すればデボラさん達新ブラディアの予備兵力をこちらに呼ぶことができる。


「念のため要請しておいてくれ。それよりワイバーンが逃げてきたら予定通り頼むぞ」


 後の事をコリーに頼み、ロターまでもうすぐ二百ジィというところまでせまった戦闘空域に近づいた。

 続いて法具から魔鉱拳銃と信号弾二発を取り出し、直上にむけて一発、艦隊にむけて一発。それぞれ違う色の信号弾を放つ。

 一発目は竜騎士達にむけた撤退の合図だ。

 そしてもう一発は、耐水防御をとれ、だ。


——ドウッォォォ——


 ロター要塞からの遠距離砲から打ち出された中位水弾の水が艦隊上残っていたイエローワイバーンを海面近くまで叩き落としてきた。

 水勢が弱まった所でイエローワイバーンにむけて艦隊から斉射がはじまる。

 魔弾を回避したワイバーンの一部が向かってきたのでそのまま引きつけロター要塞に撤退する。


 僕はロター要塞の中央に滑り込んでコリーの隣に立った。


「おかえり団長。けっこう爆弾、残ってる気がするんだけど」


「なんとかしてくれ。機関砲まで持ち出したんだ、いけるだろ?」


 艦隊には乗せていなかった機関砲は大量のストーンバレットを打ち出せる。

 数打てばどれかは魔鉱のある爆弾の先端にあたる。

 こちらに届く前に魔法を発現させるには有効な方法だ。


「引きつけろよ……」


 コリーが魔鉱拳銃に合図のための信号弾をこめながらつぶやく。

 イエローワイバーンは先ほどの水弾を警戒してか、直接は来ずに十分すぎるほど高度を確保してからロター要塞上空で周回している。


「見えた!」


 叫ぶと同時にコリーが信号弾を直上に放つ。

同時に要塞から岩のつぶてが逆さに振る雨のように空に吸い込まれていく。

同時に各種魔法が現れては流星のように魔素を失い消えていく。

 こちらから攻撃されるのを恐れて高い所に逃げたせいで、爆弾がほぼ意味をなしていない。


 それでも土魔法と上位火魔法のいくつかは落ちてくる。


「大型のロックパイルが落ちてくるぞ! 防御陣地に入れ!」


 各所から悲鳴が聞こえた後、いくつかの空気を切り裂く甲高い音が近づいてきたのち、轟音が響いた。


 落下した場所の石床は大きくえぐれ、周囲の防御陣地にめり込むほどの勢いで石がはじけ飛んだようだ。


「伝令! 各班の被害を確認してこい!」


 コリーの命令で即座に伝令が各陣地にとんでいく。

 さすがに無傷というわけにはいかないか。

 爆撃を終えたイエローワイバーン達は悠々と飛び、こちらの被害状況を確認しているのか、去ろうとしない。


「すこしおどしておこうか」


 風魔法で補助しながら空に駆け上がって一気にイエローワイバーン達の上空に出た。


 彼らの上空で少しずつビーコのブレスが出す大楯を一周させた

 上からしかかみえない煌めきはさながら氷の帷だ。


「ゲイル!」


 つづけて放った疾風が極冷の吹雪を生み出し、竜使いとワイバーンを襲う。

 ビーコの全力のブレスには遠く及ばなくても、これだけでも上位氷魔法に相当するだろう。


 風がたえず流れる空中で彼らを凍らせる事ができたのは一瞬。

 それでもワイバーンの翼幕は固くなり、失速しはじめた。

 状況が理解できた竜使い達はすぐに圏内から離脱し、我先へと逃げていく。


「団長よー、今追いかけたら壊滅させられるんじゃねぇ?」


 下からバシルのキビラが翼を羽ばたかせ昇ってきたのでその背に降り立つ。


「スタミナのあるキビラと早めに休憩したビーコはともかく国軍のワイバーン達はボロボロだ。一度休んで弾薬、装備の補充、修復を優先しよう」


「りょーかい」


 ロターの外側の竜舎に向かうキビラを見送り、僕も休憩するために下に降りる。

 接岸した戦艦の上で手際よく補給の指揮しているロジーナさんをみつつ、要塞の指揮所に向かった。


「——うん?」


 指揮所の中が騒がしい。

 ロジーナさん達、艦隊の士官達はまだだれも戻ってきていないはず。


「コリー、なにを騒いで」


「お、やっと戻ってきよったか!」


 目の前にいる人達の顔ぶれを見て愕然とした。

 ちょっと理解が追いつかない。

 確かにさっきコリーに新ブラディアに応援を要請するように指示した。

 けれど応援を頼んだとき来るのはミワ達のはず。


「皆なんでいるんだ⁉」


 一瞬新ブラディアが陥落したという最悪の展開を予想したけれど、どうも違うみたいだ。

 顔ぶれはクローリスとシャスカと護衛の二人はともかく、グランベイにいたはずのムツ大使までいる。


「落ち着くのじゃザート、まずはこの者から事情をきくがよい」


 そういったシャスカの視線の先を追うと、まったく人の気配が感じられなかった所に一人の女性が立っていた。


「サティさん? どうしてここに⁉」


 そこには、ビザーニャに潜入した時に協力してもらった第八小隊のサティさんが憔悴した表情で立っていた。




    ――◆ 後書き ◆――


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