第43話【大編隊の急襲】


 青い空を蹴り身をよじらせ、ワイバーンの突進や敵の竜使い達が放つ魔法を避けるたび、視界に太陽が入り目が眩みそうになる。

 けれど一瞬でも目をとじれば八体ものイエローワイバーンによる連続攻撃で動きを止められてしまう。


「チッ、今度も一番遠い所か!」


 また一体、ブラディアの連合艦隊を護衛するワイバーンの防衛網をくぐり抜けたイエローワイバーンから細長い塊が皇国艦に向けて落とされた。


『ヴェント・ディケム・クィンケ!』


 五連続の高速移動で細長い塊に突っ込み、アルドヴィンの爆弾を法具で収納する。

 下の皇国艦の旗艦から歓声があがったけど、それに答えている時間はない。


「ロジーナ! 艦隊を最小径の円陣にしろ! 降りてきたワイバーンに魔法を集中するんだ!」


 艦隊を指揮している少佐に指示して再び空にのぼり、また戦いを始める。



 今日、ロター沖で連合艦隊が訓練をしていると、これまでの威力偵察とは規模の違うイエローワイバーンの大編隊が現れた。

 懸念していた通り、王国は爆弾を開発していて、ほぼ全てのイエローワイバーンが爆弾を抱えていたらしい。

 落とした爆弾により南方諸侯連合の艦が二隻中破した所でブラディアのワイバーンと僕がかけつけ、戦闘になった。


 爆弾を抱えたイエローワイバーンはまだまだ空にいて、様子を見るように一体ずつ仕掛けてくる。

 こちらを疲労させるためというのはわかっているけれど、今のところ爆弾にたいしては戦艦が自分で撃ち落とすか僕が法具で回収するしかない。

 さらに爆弾を落としたワイバーンが迎撃役に加わってくるのでだんだんとブラディアの竜使い達が押され始めている。

 状況は悪化する一方だ。


「せめて鹵獲したイエローワイバーン部隊が仕上がるか、フレイが操作していた障壁発生の法具のレプリカが使えればな」


 戦い続け、つい他力本願な弱音が出てしまうけど、その願いは叶わない。

 竜騎士の随伴兵は竜使いの訓練を受けていても実戦に投入できるまでには時間がかかる。


 第一次ロター沖海戦で鹵獲した、障壁を展開していた法具のレプリカは、今新ブラディアでミンシェン達技術部が解析している。

 けれど操作していたらしい【雪原の灯台】のフレイがあれから一度も目覚めていない事もあり、遅々として進んでいない。


 そろそろ判断すべきか。


「ショーン、こっちは頼んだ! 一度旗艦におりる!」


 近くにいたビーコに声をかけ、下で円を描いている艦隊に向かっておりていく。

 円の先頭にいる皇国艦隊の旗艦に近づき、船尾楼に降り立った。


「ガンナー様、先ほどはありがとうございました。艦隊は円陣をくみましたが、この後はどうされますか?」


 待機していたロジーナさん駆け寄り、敬礼とともに訊ねてきた。

 空を確認すると、ブラディアのワイバーンと戦うイエローワイバーンが予想よりかなり有利に戦っているのがわかる。

 爆弾を落として手が空いた奴等は予想以上に多い。

 このペースだと爆弾を回収しきる前に、攻撃にまわった敵のワイバーンにこちらのワイバーンがやられてしまうだろう。


「艦隊をロター港にもどす」


 僕の指示にロジーナさんが目を見張る。


「それではロターにも被害が生じますが良いのですか?」


「ワイバーンを全滅させられるよりはましだ。ロターに戻る理由は二つある。ロター要塞に戻れば、【白狼の聖域】の遠距離射手と挟撃できる。それにイエローワイバーンの体力も無尽蔵なわけじゃない。奴等が帰還するまでの飛行距離を伸ばしてやれば、それだけ戦闘できる時間は減る。ロターに着いても早々に撤退する可能性が高い」


「なるほど、飛竜は帰還の体力を考慮しなければなりません。敵地に下りればワイバーンは一気に不利になります。彼らに休憩できる味方の戦艦がいない以上、直接帰還する可能性が高いですね。では艦隊を港へ帰投させましょう」


 ロジーナさんの指示により船体がロターにむけて回頭していく。


「よし、じゃあこっちは頼んだ。ロター港が見えてきたら船上砲の残弾数は気にしなくて良い。爆弾を落としに来たワイバーンに遠慮無く反撃してくれ」


 一気に空に駆け上がり、油断していたイエローワイバーンに死角からレナトゥスの刃をたたき込む。

 一気に魔素を抜かれたイエローワイバーンががくりと失速する。


「ファイアジャベリン・デクリア!」


 動きが遅くなったワイバーンの背中にファイアジャベリンの一群を振らせると、竜使いと随伴兵が炎に包まれて海へと墜落していった。

 けれど見届ける暇はない。

 もう目の前には体勢を整えたイエローワイバーンの攻撃隊がせまっている。


「ロックシュート・ケントゥリア!」


 こちらに向かっていた集団がパッと散開して魔法の直撃を避ける。

 魔法はワイバーンの固い鱗に阻まれ、竜使いには一発も届いていない。

その間にさらに高度を上げ、イエローワイバーンを艦隊と味方のワイバーンから引き離す。


 下を見ると、もう艦隊はロター方面にむけて進んでいる。

 円陣のままなのはロジーナさんの独自の判断だろう。

 確かにあのまま進んでくれれば僕も助かる。

         

 さすが艦の指揮はやはりロジーナさんにまかせるのが最善だ。

 それに陸上も同様に、指揮をスズさんにまかせる方が効率的だ。


「あれ、僕って指揮官でいる意味なくないか?」


 そんな考えが頭をよぎる。

 今みたいに単独で遊撃をしているのが一番戦闘に貢献しているんじゃないか?


「……どっちにしても今考える事じゃ無いな」


 ロター港が近づき、艦隊がワイバーンへの反撃を開始したのを見届けてから僕はロター港へと作戦を伝えに向かった。




    ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただきありがとうございます。


再びワイバーン戦です。ここからしばらく戦闘回が続きます。


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