第31話【リオンの事情(1)】(5/6改稿)
リオンは繁華街の人混みをかきわけ、喧噪につつまれる工房街を走り抜けていく。
顔色の悪いクローリスを抱えながらでは、見失わないようにするのが精一杯だ。
「あの、私のことは置いていってかまわないんですよ?」
「そんなわけにいくか。これは仲間全体の問題だ。クロウもいなくちゃおかしいだろう」
「ほんとに……ほんとに置いていって」
ぐったりしはじめたのでしかたなく抱え上げて走ることにした。
開いた距離を再びつめる頃には、リオンの行き先もわかってきた。
今通り過ぎたのは前にポーションの原料をもらった薬草園だ。
ここの上には北岬砦くらいしかない。
「クロウ、悪いがここに置いていくぞ」
「う゛ぅ……砦の上……ですね。後で追いつきます……」
弱々しい返事のクローリスを置いて、坂をのぼるスピードを上げていった。
グランベイの夜景を眼下に一望できる広場の端に、街を見下ろすリオンの姿があった。
月の光で輝く耳と、風に吹かれる銀髪が、地上から遠い事もあってか浮世離れした美しさをみせていた。
「ザート……」
「どうして逃げたりしたんだ?」
驚きはしたけれど、何で逃げる必要があったのか。
逃げるのは後ろめたい事があるからという人がいたけど、リオンが人から逃げるような悪事を働いていたなんて考えられない。
たとえ過去をかたらない訳ありだったとしてもだ。
「狼獣人だって事、隠しててごめん。逃げたのは、ザートに隠してた姿を急に見られて、隠してた自分が恥ずかしくなったからだよ。でも、もう覚悟はできた。かくしていた理由や、それに関係する私の過去や、私が冒険者をする目的も話すよ」
刺激しないよう、そっと会話の先をうながす。
「ザートが書庫の秘密を明かしてくれた後、私も全部話そうと思ってたんだ。でも、迷っているうちに打ち明けるのが怖くなった。出発前にザートが提案してくれた未来がとても魅力的だったから」
要領を得ないリオンの話に首をひねる。
そんな僕の様子をみてリオンは微笑んでいたけれど、すぐに顔をくもらせた。
「私の目的はザートの狩人になるという目的と両立しないかもしれないんだ。ザートに目的を打ち明けたら、その場でパーティを解消されるかもしれない。そう思ったら怖くて……」
両腕で身体をかき抱き、いつもと違いたどたどしく言葉をつむぐ様子は、リオンが今も同じ恐れを抱いている事をしめしている。
話によれば、リオンはやっぱり、ホウライの皇族らしい。
ユミガネ・ミツハ=アシハラという、ホウライ人の安全確保を目的にした皇国駐屯軍を率いる皇族少佐がリオンの父親だった。
あらためて夜の海を背景に輝くリオンの髪と耳を見る。
確かに、これを特徴的なら同族以外の獣人もリオンが皇族だと気づくだろう。
「父様が王国に駐屯する大隊の指揮官になったのは皇族である事と、個人で皇国最高レベルで強いからだった。皇国では牙狩りっていう、王国でいう狩人として活躍してたんだって。でも王国に来てからは出番もないし、自分は身分だけのお飾りだって言ってた」
おどけて、でも少し誇らしげに胸をそらして、リオンは反対側の南岬をながめる。
「それでも、皇国の牙狩りがいるという事は王国のティルク人を安心させていた。それができるのは力を持つ者の誇りだって笑ってたよ」
懐かしむように、リオンは上を向いてつぶやいた。
「話が少し見えてきた。リオンが海で放とうとしていたのはミツハ少佐が牙狩りとして活躍していた時につかっていたスキルか」
「うん。牙狩りには必須のスキルで、父様はマガエシって呼んでた。私は子供の頃に一度だけ、父様のロングソードを使って放てたんだ」
「一度だけ?」
「うん……父様の剣を借りて真似してみたらできたんだけど、魔力切れを起こしたみたいで倒れてね。怒られてその後は貸してもらえなかった」
魔力切れは子供なら仕方ない……でもスキルは一度手に入れれば、必ず発動できる。
なんでこの間はロングソードをつかっても発動しなかったんだ?
「リオンは狩人に、父親と同じ牙狩りになりたかったのか?」
「なりたかった。だから小さい頃から厳しく訓練して、おかげでそれなりにつよくなれたよ。でも父様と同じ牙狩りになるには、やっぱりマガエシが使えなきゃいけない。だから唯一のてがかりのロングソードを手に入れようとしたんだ」
なるほど、ずっと疑問だった。
リオンの技術をもってすれば普通の片手剣でも冒険者はできたはずだ。
両手武器にこだわっていたのは父親のスキルを発動させるために試行錯誤していたからだったのか。
こんな形でリオンの事情を知ることになるとは思わなかったな。
――◆ ◇ ◆――
いつもお読みいただきありがとうございます。
長く読みづらかったため、二話に分割しました。
一度読まれたかた、申し訳ありません!
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