第07話【三度目の正直、なんてありえない】


 朝日を浴びながら飛びつづけ、第五中央砦の手前に降り立った。

 他の金級パーティがあつまるまでには時間があるせいか、砦はとても静かだ。


「ザート、私達だけ指定時刻がはやいのって、なにするんだろうね?」


 リュオネの言うとおり、僕らは他のパーティより早めに到着するように指示されている。


「なんだろうな……なにか嫌な予感がするけれど」


「? なにか思い当たる事があるの?」


「いや、そんな気がしただけだよ。ハハ、僕もはじめて第五長城外にでるから、少し不安になってるのかな」


 隣を歩くリュオネの不思議そうな顔にたいし、まるで自分に言い聞かせるように笑いかける。

 正面に大森林地帯が望める突きあたりの広場にでると、行政庁舎の中から人影がでてきた。


「おはようございます、リザさん」


 人影はリザさんだった。


「おはようみんな。今日は正装ね」


 リザさんの言うとおり、今日は僕とリュオネだけじゃなく、ここに来た皆が統一したクランのマントをつけている。


 衛士隊の二人は赤みがかったオリジア色。

 兵種長達四人は山吹色だ。

 竜騎兵達三人はくすんだ水色で、空でなるべく目立たないようにしている。


 僕とリュオネとは逆に、銀月ぎんげつという青みがかった銀色をした布を内マントにつかっている。


「ええ、王国より直々の依頼ですからね、士気を高めるためにも用意してきました」


 和やかに笑いながら、そういうオーダーでしたから、という言葉をぐっと飲み込んだ。

 本当は調査計画書にしっかり正規の装備で来いと指定されていたのだ。

 ドレスコードがある依頼なんて初めてだよ!


「それでは、他の皆さんが来る前に昇級手続きを始めましょうか」


 予想通り。

 リザさんの後ろで職員の皆さんが手早く魔道具をテーブルに据え付けた。


「昇級って、良いんですか?」


 ショーンがたまらず聞き返す。

 僕以外のみんなも一様におどろいている。

 なにしろ、ついこのあいだ銀級に上がったばかりなのだ。


「問題ないわ。私が自分の目で、皆が新しい位階等級にみあった実力を備えていると確認しているもの。それに、他の金級冒険者に軽く見られたくはないでしょう?」


 青空の下、突然はじまった承認式。

 アルバトロスが銀級七位、デボラさんと兵種長が銀級五位、リュオネとミワが銀級一位となった。


「ザート君、冒険者証を出して?」


 流れるような所作で笑顔のリザさんが手を差し出してくる。

 ああ、やっぱりか、嫌な予感があたったよ。

 あんなに夢見ていたのに、本来ならおごそかに授与される位階なのに。


「あの……これって正規の手続きですか? こういうのって伝統とかそういうの、大事だと思うんですよ」


 震える指で冒険者証を差し出す。


「気持ちはわかるけど、ブラディアは国になったのよ? この忙しいときに伝統とか格式とかそんなこと言ってられないのよ?」


 もう本音を隠さなくなったリザさんが容赦なく魔道具に銀色の板をさし込んで起動した。


「はい、これでザート君は金級冒険者ね」


 目の前に、金色に変わり果てた僕の冒険者証がさし出された。

 僕は機械的にそれを受け取る。

 もはや諦めしかない。


 僕はあらためて金色のプレートをじっとみた。

 この軽さは一体なんだろう。本当に金でできているのだろうか?


「ザート、おめでとう! 夢にまた一歩近づいたね!」


 リュオネが今日の空のように曇りのない笑顔で祝福してくれる。

 他の皆も僕を囲んで口々におめでとうと言いながら拍手で祝ってくれた。

 こういうとき、どうすればいいんだろう。

 笑えば良いのかな?






    ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただきありがとうございます!



二度あることは三度ある、ということでした。



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