第08話【おもちゃをねだる子供が二人】
強力な魔物、魔獣があふれてくる異界門が開いたライ山は、ブラディア山系の東部、コズウェイ港のほぼ真北にある。
第五中央砦で組織された、僕たち異界門跡地調査隊はコズウェイを経由してライ山に向かっていた。
「右手岩場の影にスケーリーウルフがいる! 十ジィ中位土弾モート、のちロックパイル!」
ミワが魔鉱拳銃で同じ場所を撃つと、陥没した穴に光を反射する黒い狼が複数落ちていった。
「魔弾『ロックパイル』!」
デボラさんが撃った直後、人の足ほどの石の杭が穴の手前に現れ、そのまま穴の中の狼を串刺しにした。
デボラさん、ノリノリの所悪いけど、コトダマは要らないからね?
「ザート! 五体が向かってくるよ!」
「オットー隊!」
僕らに向けて走り込んでくる五体のスケーリーウルフを左右に展開したオットー達が迎え撃った。
エヴァとジャンヌの土弾で足を止め、バスコが遅延火魔法を複数放ち、逃げる間を与えず高熱を与える。
「っえええぃ!!」
まだ息のある魔獣にオットーが大身槍を構えて突進し、その足をゆるめる事なくもろくなった鱗の上からたたき、突き、打ち上げる。
一度の突進でスケーリーウルフを黒い泥に変えてしまった。
改めて周囲を”浄眼”で白い炎がないか確認してため息をついた。
「敵は全部倒した。お疲れ様」
クランの皆が構えを解いて自分達が倒した凝血石をとりにいく。
ゴツゴツした岩が目立ってきたから、もうすぐ大森林は抜けるかな。
―― ◆ ◇ ◆ ――
「魔鉱銃ってやっぱり便利だよなぁ。凝血石はもったいねぇけど」
高そうな槍を担いで僕の右を歩く中肉中背の男、金級パーティ【カンナビス】のアルマンが赤銅色の蓬髪をかきながらぼやいた。
「たしかに、戦力の底上げにはなるよ。オットーみたいに銀級上位くらいになると元々の武器で戦った方が強い場合も多いけどね」
オットーは膂力がありすぎて魔鉱銃の銃身がもたないので、実戦では基本的に銃を使わない。
逆に、これまで攻撃担当じゃ無かったミワや魔法が使えなかったデボラみたいに、魔鉱銃を持つ事で弱点が補われ、活躍する場面が増える団員もいる。
「ザート君ー、やっぱり私たちもほしーなぁ」
僕の左で身体を揺らしているのは、ピンクゴールドの髪を結い上げているオリヴァ色のローブをまとった小柄な女性、金級パーティ【ネフラ】のリーダーをしているペトラさんだ。
「ギルベルトさんに相談してください」
今日何度目かわからないおねだりを、調査隊をまとめる王国軍士官のギルベルトさんに丸投げする。
「えーギル君あたまが固いから無理だよぅ。だからこうしていない時に相談してるのにぃ」
わかってない、とばかりにため息をつかれる。
「言ってみなくちゃわからないでしょう? 大森林を抜けたところで待っているはずですから、一緒にいってみましょう」
お目付役のギルベルト中尉はアルバトロスと一緒にビーコにのって先行している。大森林があけた先、ライ山の登山口で待っているはずだ。
「それなら俺もいかせてもらうぜ。魔法使いだけの【ネフラ】より、魔法使いがいない俺達の方が話を通せそうだからな」
そういって大口を開けて笑っていたアルマンが、唐突に真面目な顔になった。
「次の順番は【カンナビス】だったよな?」
「二方向から魔物が忍び寄ってきてる。私達も出るよ」
ペトラさんも真面目な口調になって後ろを見た。
二人が同時に左右に飛び出すと、それぞれのパーティが一糸乱れずに後に続いた。
先に戦闘を始めたのは後方から飛んでくるグリフォンに向かった【ネフラ】だ。
上空から風をまとい落ちてくるグリフォンの初手は、下手にその場にとどまれば次の瞬間にくちばしと爪で引き裂かれてしまう。
けれど、【ネフラ】の三人は風魔法をつかってグリフォンの暴風に乗り、上空へと昇った。
五花弁のシェリの花の様に舞うペトラからアイス・ラムが射出され、グリフォンの羽根が地上にぬい止められる。
「フェッロ、ミランダ!」
ペトラさんの指示に無言で答えた男女の魔法使いがミストとゲイルをグリフォンへと放つ。
ゲイルによりグリフォンの周りを回り続けるミルクにもにた霧は、さながら嵐において千変万化する乱雲だ。
本来一時的にしか発生しないはずのゲイルの突風はむしろ勢いをまし、乱雲を幾重にも発生させ、混沌とした渦を生み出している。
それを為しているのはグリフォンの前で杖をかざしているペトラさんだ。
一見なんの魔法も行使していないようにみえるけど、僕の浄眼は、彼女から濃密な魔力が渦にむけて発されているのを捕らえている。
『
光をはらむ夏空の雷雲のように、霧の塊から激しい光が発されると同時にグリフォンの断末魔が響いた。
声の残響と同時にペトラさんが地面を杖で一突きすると、散っていく霧の中に黒い泥の影だけが見えた。
「右のトロールから狙えぇ!」
声が響く方に首を向ければ、アルマンが土色の巨人トロールに一番槍をつけた所だった。
指示される事無く、【カンナビス】のメンバーがそれぞれの武器で波状攻撃を行った。
彼らの一手一手が無詠唱による上位スキルの攻撃だ。
囲まれたトロールは二度ほど巨大な腕を振り回しただけで黒い泥となって消えてしまった。
「次ぃ!」
次の獲物に襲いかかった彼らは、トロールの岩を落とすような攻撃も見切り、凶悪な蜂の群れのように散っては群れて敵の肉をかみ切り、あっという間に三つの黒い小山をつくってしまった。
戦闘を終え、【白狼の聖域】の隊列を整えていると、戦っていたパーティのメンバーも戻ってきた。
三人連携による素早い独自魔法の発現、下手に指示せず、個々の戦闘力をそのまま発揮させる無言の連携はさすが金級パーティだ。
「ねぇねぇどうだったー私達の千糸雷針?」
「俺達の連携攻撃に隙なんてなかったろ?」
余りのすさまじさにため息をついていると、何でも無かったかのように二人が戻ってきた。
それを僕は笑顔でむかえた。
「うん、金級パーティに魔鉱銃はいらない事がわかったよ」
瞬間、二人が真顔になる。
「何で!? あれだけ頑張ったのになーんーでー! 私もそれ欲しい!」
「その一瞬で形が変わるからくりで戦いてえんだよ! くれって!」
褒め言葉のつもりで言ったんだけど、二人からいっせいに不満の声が上がった。
子供か!
――◆ 後書き ◆――
いつもお読みいただきありがとうございます!
今回は、金級パーティの紹介と、魔鉱銃の位置づけについてでした。
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