6章:異界門封印

第01話【”フリージアの悲劇”その後】

〈クローリス視点〉


 第四十字街からまた資材をのせた馬車が第五長城壁に向かっていった。

 乗っているのは【白狼の聖域】の冒険者パーティだ。

 数日前、とあるパーティが魔人を壁の内側に入れたせいで出城が壊滅してしまった”フリージアの悲劇”から早く立ち直るため、私達は国に全面協力している。


「……犯罪者どもを取り逃がしたのはしくじったぜ。まさか夜に大森林を突っ切って海にでるなんてな」


 隣で同じ馬車を眺めていたショーンが渋い顔をした。

 魔人の襲撃中、狩人のフリージアさんを置いて逃げた【雪原の灯台】と【ハヌマー】は、警備軍や【白狼の聖域】の網をかいくぐって逃亡に成功した。

 救援のために手薄になった第五港湾砦を強行突破し、用意していた快速船に乗っていったらしい。

 彼らが逃げ切ったため、ライ山付近に行っていたという状況証拠以外、なにもわからない状態だ。


 だから、近いうちに異界門事変のあったライ山を調べる調査隊を組織する。

 そこにはプラントハンターとアルバトロスも入る予定だ。

 アルバトロスは異界門事変でライ山付近を飛んだ経験がある。

 そして魔人化した狩人のフリージアすら倒したザートとリュオネは、魔人がいる大森林では戦力の要になるだろう。

 そして私も参加するつもりでいる。


「ねぇクロウちゃん、銀級になるのはいいけど、なにも調査隊に参加しなくてもいいんじゃない?」


 オルミナさんが心配そうにみている。

 調査隊に加われば、魔人と対決する可能性がある。

 元人間の魔人を相手にするのは魔獣を相手にするのとは別のつらさがあるという。


 私に人同士の争いを経験して欲しくない、後方支援だけに徹して欲しい、という善意からオルミナさんが言ってくれているのはわかっている。


「ありがとう、オルミナさん。でも、私だって魔獣だけじゃなくて人を倒した経験もあります。伊達に戦闘スキルなしで放ろうしてたわけじゃないんですよ?」


 【新約の使徒】にいた頃に経験は積んだし、決別してからも、隊商の護衛中に盗賊を殺すこともしていた。


「……オルミナ。気持ちはわかるが、パーティの仲間に置いていかれたくない気持ちをわかってやれ」


「大丈夫だ。俺達にもクロウにも銃がある。クロウがつくってくれた武器がな」


 デニスとショーンの言葉もあって、オルミナさんも寂しげに私の意志を尊重してくれた。



「さ、話は終わりだ。とりあえず目の前の昇級試験に集中しようぜ!」


 ショーンの明るい声で皆が気持ちを切り替える。

 今回私はアルバトロスに入れてもらい、銀級昇級試験を受けるのだ。


「バーベン領のオーガーは余裕で倒せたけど、マンティコアには通用するのかしら?」


 オルミナさんは自分の二丁拳銃を眺めながらつぶやく。

 アルバトロスを含めた竜騎兵隊は運用が特殊なので私が持っているような銃剣ではない特殊な魔鉱銃を持つ予定だ。

 アルバトロスがもっているのはその最終試作品になる。


「大丈夫ですよ。オルミナさんの銃は近距離なら私が使うような長い銃より優秀です」


 デニスが持っているのは半ジィほどある抱え大筒の銃床に斧をつけたもの、ショーンはほぼ同じつくりで銃身がながい狙撃タイプだ。

 前の世界のロマン武器でこういうのを見たので作ってみたら意外といけた。


「おーい、アルバトロスとクロウ! 準備しとけ!」


 オットーさんの声が響く。

 そろそろ皇国組のパーティがマンティコアを釣ってくるタイミングらしい。

 四人で側塔を降りて待機する。


 リーダー役は私だ。

 仮にも幹部、これくらいしとかなきゃいざというとき困る。

 と、スズさんに言われた。


 咆哮がしたので身構えていると、皇国組のパーティの後ろからマンティコアが二体出てきた。


「すいません! 一体だけお願いします!」


 多分釣っている間にもう一体に見つかってしまったんだろう。

 一人が毒をくらったのかぐったりしている。早く対処したほうがいいかもしれない。


「無理に倒そうとしないで身を守って下さい! こちらをすぐにかたづけます!」


 タイムアタックという条件が加わったけど、やることは変わらない。


「射線に味方が入らないように注意して! ショーンはハルバードで牽制けんせい! 動きがとまったら左翼オルミナが一撃!」


 マンティコアはすでに銃が有利な射程の内側に入っている。

 ショーンの持つ長距離用銃を無理に使う必要はない。


 作戦どおり突進を止めたマンティコアにオルミナさんの火弾が着弾する。

 マンティコアは至近距離からのファイアに驚いたみたいだけど、すぐに威力の低さを悟ってオルミナさんに向かっていった。

 

「ふんっ!」


 オルミナさんをおとりにしている間にデニスが後ろに回る。

 気合いとともにデニスの戦斧がマンティコアの毒針をたたき切った。

 よし、後は普通の魔獣のように倒していけばいい。

 油断しかけたとき、離れた場所から悲鳴があがった。


「三体目ッ!?」


 偶然迷い込んだのか、誰も釣ってきていないにもかかわらず、茂みから怒り狂ったマンティコアが飛び出てきた。

 狙いはアルバトロスから少し離れていた私だ。

 

 着剣した銃剣には魔弾も込めていて、戦闘準備は出来ている。

 素早く膝射の体勢をとり、五ジィの距離で中位土弾を放つ。

 若干ダメージはうけたみたいだけど、マンティコアはかまわず突進してくる。


「逃げずに、前に踏み出す!」


 素早く立ち上がりマンティコアの突進の前を横切るように進み、銃剣の突きではなく、長巻を使う要領で硬い尻尾をすり上げてから刃を反転させ、下から尻尾を切り上げて断ち切った。


「まだです!」


 一回転し、尾を切られながら長い犬歯でかみついてくる猿の顔を銃床で下からカチ上げ、銃身をすばやく引き戻して切りつけから突く。


 すばやく引き抜き残心をとると、マンティコアの身体が黒い泥になってとけていった。


 あ、あせったぁー。

 危ない、三体目は正直予測してなかったです。


「おいクロウ大丈夫か!」


 アルバトロスと監督していたオットーさんがかけつけてきた。


「すまん、手近な一体は始末したんだが、そちらには間に合わなかった」


「すまん、こちらも手一杯だった」


 申し訳なさそうに謝ってくる四人。

 ……わかってない。この人達はわかってない。

 だんだん怒りがこみあげてきた。


「現場のリーダーは私です! パーティから離れた落ち度は私にあるんですから謝らないでください! それにオットーさんも、マンティコアを倒したんですからもっと言うべきことがあるでしょう!」


 私の剣幕にたじろぐ四人。私だっていつもへたれているばかりじゃない。

 怒る時は怒るのだ。


「言うべきこと……?」


 まだわからないのかなこの朴念仁は、それでも兵種長か!


「”すごい!”とか”クローリスは強いなぁ”とか、そういうことゆえへんのか!」


 こちらがまくし立てたのに、いつも険しい顔をしているオットーさんの顔が柔らかくなっていった。

 あれ、これもしかして笑われてる?


「もう、自分で言うかなぁ。はいはい、クローリスちゃんは強いですねぇ」


 オルミナさんは苦笑しながら私を抱きしめてなでてくるし、ショーンやデニスは声を上げて笑っているし!

 やっぱり笑ってる、馬鹿にしてる!


 オルミナさんのふわふわビーコ装備から逃れようともがいていたけど、離してくれないから途中であきらめてふわふわを堪能することにした。

 もういいや、私はそういう存在なんだ。

 そう悟って、私はモフモフにうずもれていった。

 





    ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただきありがとうございます!


こんな感じですが、第六章、始まります。


六章は人間模様に字数を多く使う予定です。

もちろん様子見つつですが。


それにしても、ちょっと真剣なクローリスの話だったのに、やっぱりオチ担当にしてしまうのはなぜなのか……


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