第35話 二足歩行の竜種


——ギィン!


「石板を両断⁉ そんなのアリかよ!」


 目の前で起きた光景にコリーと一緒に驚きたいのはやまやまだけど、こちらに迫ってくる魔獣を前にその余裕はない。

 法陣から出した石の板を真っ二つに割り、亜竜が長城壁上を二足歩行で疾駆してくる。


『ヴェント=ヴィギント・ディケム!』


 一瞬で引き上げた身体強化で加速した身体を急制動させ、前に進む力を回転する力に変え、手に持つ戦槌に伝える。

 うなる戦槌をそのまま亜竜の横腹にたたき付けると亜竜は長城壁から地上へと落ちていった。


「土魔法や魔鉱銃は相性が悪い。離れていてくれ」


 コリー達に指示をしながら、城壁下に落下してもがいている、頭部に刃のようなツノをもった灰色の亜竜をにらんだ。


「同行したその日のうちに未発見種と出会うなんてな」


 ビコルヌと名付けた川にそって長城壁を造っていたコリー隊が見通しの悪い谷に入るのに合わせ、今日から僕も合流している。

 どんな魔獣・竜種がいるか知られている空に対して、歩く人のいないティランジアの内陸は完全に未知の領域だ。

 だから僕は竜の墓場の捜索などをアルバトロスとリュオネ達にまかせ、陸路を進んでいる。


 距離をとって岩だらけの地上に降り、亜竜とにらみ合う。

 向こうも初めて出会う敵を警戒しているのか、簡単には近づいてこない。

 さっき亜竜は僕達がつくった長城壁に登り、背後から突進してきた。

 加速できる地形を選ぶ知能もあるし、なによりさっきの鉄板を切り割った頭突きが脅威だ。


 メドゥーサヘッドが騎乗していたガロニスと同じく、変形したツノが顔の眉間から口元にかけて刃の様になっている。

 ツノ自体も硬いんだろうけど、おそらく魔法で切れ味を上げている。

 一般兵に任せる時は絶対に正面に立たせちゃいけないな。


 じれてきた亜竜がこちらに突進してくる。さっき以上に速い!


『ヴェント!』


 大きく横に跳ぶと亜竜は即座に方向を変えてきた。飛竜種の襲撃より速い上に小回りもきく——


『——ディケム!』


——ッパァン!


 悪寒を覚えさらに距離をとると、僕がいた場所で鋭い音がなった。長い鞭のようにしなる尻尾による攻撃だ。

 突進を避けて油断した所を時間差で襲ってくる、たちが悪いな。これじゃ二ジィ程度横に跳んでも意味がない。


「モート!」


 ギリギリのタイミングでつくった空堀も易々と跳び越えられてしまった。

 後ろに回った亜竜に魔鉱銃を放つけれど、発現した魔法を察知されたのか、加速されてとらえる事ができない。


「魔弾も避けるのか、これはいよいよ一般兵には厳しいな……」


 どうするか。

 速すぎる突進、届かない間合い、飛び道具を避ける感覚。これじゃ飛行中の飛竜種を相手にするのと変わらない。

 地上にいる飛竜種は竜の里の人々が捕獲できるくらい安全だけど、空にいる飛竜種は無敵と行って良い。急速に降下して一方的に攻撃してくる。


 飛竜種に対抗できるのは同じ飛竜種くらいだ。

 飛竜同士の戦いは少し特殊だ。相打ちを避けるために正面から攻撃せず、互いに併走しながら上を取り攻撃する。

 逆に言えば必ず上から襲ってくるからショーン達は魔鉱銃でカウンターを決められるんだけど。


「カウンターか……なら、クレイ!」


 亜竜が離れた所で膝をつき、足元の柔らかい岩に手早く取り出したものを埋めていく。

 できあがったのは魔弾が飛び出した岩板だ。

 レッサードレイクならこれを踏みつけると同時に発現した魔法をくらってくれるだろう。

 けれど、おそらく目の前の亜竜は、魔法が発現する頃には既に通り過ぎている。

 だから、もう一手間かける必要がある。


「ロックウォール!」


 地面を隆起させて魔弾の刺さった岩を目の前に突き立てるが、亜竜は構わず突進してくる。

 自分の頭部に相当自信があるんだろう。

 よし、そのまま来い!


 後ろに下がると同時にロックウォールを頭の刃で切り割った亜竜の顔が見えた。

 亜竜は速さを落とす事なくこちらに向かってくる。

 何も無ければ岩板の魔弾は跳ねとばされるだけだ。

 けれどそうはならない。

 亜竜の身体がロックウォールを完全に抜けた直後、爆音と亜竜の悲鳴が長城壁に響いた。



「おー、やっぱりこの頭の刃はエグいな。上から見てたけど、最後になにやったんだ団長? 遠くてよく見えなかったぞ」


 コリー達が即席の階段をつくって降りてきて亜竜の死骸を興味深そうに眺めている。


「ロックウォールにする岩板に魔弾とアミを仕込んだ。この亜竜は自分が何でも切り割れると自信があるから障害物があっても避けない。だから砕けた岩板が首のまわりに巻き付くようにアミを入れておいたんだ」


 ファイアバーストで燃えて吹き飛んだロープの先の岩を持ち上げて見せるとコリーが微妙な顔をしてきた。


「すげーけどさ……よくとっさに思いつくよな」


「コリーが前に第三新ブラディアで子供達にポーラを教えていただろう? あれを応用したんだ。やっぱり先人の知恵は役に立つよ」


 僕がやった事をどうやって再現するか、コリー隊の皆が話し始めたので亜竜の死骸を収納する。


==

・ディアガロニス(鳥竜種・死骸):ガロニスを素体とする亜竜。ガロニスの群れを率いる。突進の際ツノの間から吐き出す高熱のブレスが対象を焼き切る

・竜の種(破片)

==


 浄眼の視界に現れた鑑定の内容をみて、思わず手元の岩を見る。よく見れば所どころが溶けた鉄のように赤くなっていた

 熱で岩まで焼き切るなんてすごいな。

 それにしても元はガロニスで……群れを率いる?


「コリー、長城壁で話し合っていてくれ。ちょっと空に行ってくる」


 コリーに言い残して空から地上を探す。

 今倒したのが群れのボスなら……よし。

 思った通り、山を越えた所で茶色いガロニスが群れをつくっていた。




    ――◆ 後書き ◆――


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