第23話【再会】
「これは、贅沢だな……」
空色の平滑石で装飾された城門を抜けると、思わず口を開けて上を見上げてしまった。
大通りの列柱から伸びるアーチは鉄製。
平面部分がステンドグラスになっていて、ティランジアの朝の日差しを受け、バザールの軒先に鮮やかな影を落としている。
バザールでは、アルドヴィン王国なら高価な壺に入る香辛料が素朴な店先で量り売りされ、ティランジア独特のティラジスク紋様の絨毯、陶器、その他生活雑貨らしきものが売られていた。
一転して、人々の服装はシンプルに白と黒で統一されている。
男性は白いバヤとよればれるローブに身をつつみ、女性は黒いアリアヴェールとバヤで身を包む。サティのような未婚の女性の場合は色のついたアリアヴェールとバヤだ。
「あまりキョロキョロしないでください。これからバルドの施設に潜入するんですよ?」
人の流れに逆らわないように歩きながら頭を巡らせていると、サティに注意された。
これから僕らはバルド教の施設に潜入する。
アルドヴィンに送られる未加工の血殻を奪えるかどうか、これから確認するのだ。
目的地に向かう途中、港に立ち寄ると大型のガリオン船から高速のカッター船まで様々な種類の船舶が並んでいた。
「フランシスコ商会の印があるカッター船は……結構あるな」
少なくとも三つは桟橋を独占している。
あそこから弾丸を始めとした商品がアルドヴィン王国のパトラ港へと持ち出されていくんだな。
「……? あれって男爵の側近じゃない?」
リュオネが指さした先には、確かにファストブレーンの紋章をつけたマントをつけた男がいた。
確かに見覚えがある。
けれど、グランベイの男爵がバルド教の荷を扱っているフランシスコ商会とつながっている?
「男爵がバルド教と内通しているならやっかいだな」
もしブラディア王国が破れたとき、軍が敗走する先は多分グランベイになる。
その代官がバルド教に寝返っていたらまずいことになる。
「サティ、あの男には監視をつけといてくれ。場合によってはブラディア王に告発する材料になる」
サティに念のため監視するように伝え、そのまま先に進むとおおきな倉庫が現れた。
戸口からしても二倍。二階建てなので延べ床面積はかなりのものだろう。
他の商会のものよりかなりおおきい。
「ここがバルド教の施設か……」
あらかじめ協力者からきいておいた裏口の前でつぶやきながら、僕とリュオネはクローリスがつくったマントの色が変わる魔道具を起動した。
周囲の色に合わせて色彩がかわるので敵にはかなり見つかりにくくなるはずだ。
「じゃあ行こう、か……?」
とっさに後ろに飛ぶと、直後に扉が開け放たれ、旅人用のマントに身を包んだ男がぶつかるように飛び出してきた。
「あっぶねっ!」
狭い道なので逃げ道はない。
必然的に逃亡者と前後して走ることになってしまった。
これじゃまるで共犯者じゃないか。
「て、お前ザートじゃねぇか!」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはロターで別れたはずの、クリーム色の髪と浅黒い肌の男がいた。
具足を付けていないからきづかなかった。
「シルト!? お前なにやってんだよ!」
再会の喜びを語る暇もなく、僕たちは走る速さを緩めずに港からバザールの人混みに突っ込む。
おっちゃんおばちゃんの間を縫うように走りながら城門に向かっていく。
「いや、詳しい話は後でだな。とりあえず城外までつきあえ。バルドの僧兵をやるぞ」
「その前に六花の具足はどうした!? それから人を犯罪に巻き込むなよ!」
今のシルトは鎧下の上にマントを羽織った状態だ。
どういう理由か知らないが、潜入していたにしては軽装すぎる。
「うるせぇ、施設に入ろうとしてたお前も似たようなもんだろう! 具足の心配はすんな!」
確かに、同じ行動をしようとしてた事は否めない。
後ろを見ると、魔鉱銃を持った僧兵が迫っていた。
「構えぇ!」
城門をでるなり野太い声が響く。
背中を見せた方がかえって危険なので立ち止まり振りかえる。
僧兵はもう膝射の体勢にはいっており、四丁の銃口を向けていた。
有無を言わさずこちらを殺すつもりだ。
「ザート、せっかくだからちょっと見ててくれ」
口の端を引き上げたシルトが僧兵達の前で仁王立ちになった。
「撃てぇ!」
大楯を展開する間もなく、僧兵を率いる隊長の号令とともに弾丸がシルトに向けて発射され、シルトに四属性の魔法が襲いかかった。
「シルト!」
着弾後、白い煙に覆われた姿に向かって思わずさけんだけど、蒸気の中から現れたのは六花の具足に包まれたシルトの姿だった。
「シィッ!」
薄紅色の具足をまとったシルトは吸収した魔素で身体強化を使い、一瞬で僧兵の一人に近づき、相手の首に手刀を突き立てていた。
「さ、散開ぃ!」
指示をだした隊長は、次の瞬間にはシルトのショートソードで貫かれていた。
僕の身体強化より速い。
僧兵の銃には銃剣がついておらず、近接戦闘には向かない。
銃身を跳ね上げ、護身用の短剣を持った手をはじき、シルトはあっという間に残り三人も突き伏せてしまった。
「……ふぅ」
息をつくと、具足姿のシルトが一瞬でもとの平服姿にもどっていた。
僕の神像の右眼と同じように、シルトの法具、六花の具足もなんらかの変化をしたのだろうか。
「まあ、こんなもんだ。ひさしぶりだなザート」
「ああ、しばらく見ない間に、なんか強くなったか?」
思わぬ再会で僕らが笑い合っていると、城門から三人の人影がやってきた。
「ザート、大丈夫だった?」
リュオネとサティが走ってくるけど、その後ろから、もう一人、見知らぬ少女が歩いてくる。
長い髪に、小柄ながらも整った手足と切れ長の目。
顔立ちはどことなくクローリスに近いか?
「ああ。未だに事情がわからないけどね。で、そっちの人は、もしかしてシルトの知り合い?」
状況からしてそうだろうとふんで訊くと、女の子が無表情にうなずいた。
「はじめまして、魔導技師のミンシェンです。シルトが借金を踏み倒したので帝国から追いかけてきました。素材を盗ませるためにシルトをバルド教の施設に潜入させたのにしくじったみたいですね。本当につかえない」
おう……この子もなんというか、どうなのシルト?
チラリとシルトを見ると、がっくりと肩を落としながらも首を振り続けていた。
――◆ 後書き ◆――
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シルト+αとの合流の回でした。
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