第24話【人材および竜の骨、確保】
追っ手のバルド僧兵に見つからないように、僕らはすぐに現場を離れて拠点の廃墟へと向かった。
遠回りしていく道すがら、こちらのこれまでの事をかいつまんで話すと二人とも驚きつつ受け入れてくれた。
帝国でも事情は市民の間に知れ渡っているという話だ。
シルトがさっき見せた一瞬で六花の具足を着込んだ仕組みはミンシェンが改造した結果らしい。
六花の具足を目印に追っ手が来るのを恐れていたシルトだったけど、ミンシェンの手で具足を隠せるようになり、ブラディアからアルドヴィンの勢力が駆逐されたのでブラディアに戻ろうとしていたらしい。
ちなみにシルトはミンシェンに借金などしていないとの事。
「……で、ザート達はなんであの施設に潜入しようとしてたんだ?」
僕らがエルフと敵対している事はシルトも覚えていたのか、向こうの仲間だとは思われてないようでよかった。
「バルドの銃を複製した話はしたよな? それで、弾の材料が凝血石のカラの”血殻”だったんだ。その他も色々使えるから、奴らがどうやって確保しているのか探りに入ろうとしてた」
端的に事情を話すとシルトが目を見開いて振り向く。
けれど、身を乗り出して口を開いたのはさっきまでローテンションだったミンシェンだった。
「へー、なら私達と目的は同じね。私もシルトの具足を複製するのにその”血殻”をさがしていたのよ」
帝国では管理が厳しくて手に入らなくて、とミンシェンはため息をつくけど、今度は僕らが驚く番だった。
「シルトの法具を複製できるのか⁉ 今僕らの技術部でも再現しようとしてるんだけど、なかなかうまくいかないのに」
「オリジナルには全然およばないけどね。圧縮する必要があるから大量の血殻がいるし。だからシルトに潜入してもらってたの」
ミンシェンは謙遜しているけど、六花の具足の複製はバルド教側でも苦労していたはず。
数は少なくても、こちらが装備できれば大きな戦力になる。
もちろん、オリジナルの法具をもつシルトも同様だ。
隣を歩くリュオネがうなずくのを見て、話を切り出す。
「シルト、ブラディアに戻ったら——」
「ああ、バルド教を潰すために戦争には参加するつもりだったさ。国軍にでも入ろうかって考えてたけど、お前等には恩がある。よければ【白狼の聖域】に入れてくれないか?」
「あ、シルトが入るなら私も。レプリカの性能を上げるにはまだ解析が必要だし、貴方たちのクランは色々面白そうなものを持ってそうだし?」
こちらの心を読んだかのようにクラン入団を申し出てくれるシルトにミンシェンが続く。
「即答してくれて嬉しいよ。それじゃ、よろしくな」
山中だけど、立ち止まり五人で握手を交わす。
予想外にフランクに二人の入団が決まってしまったので少し話題に困った。
「そういえば、プラントハンターに土産があるんだった」
シルトが腰をひねってマジックボックスだという腰のポーチをあさりだした。
「これな、ティランジアのちょっと変わった場所で採ってきたんだよ。お前等植物の種集めてただろ?」
そういって取り出したのは、丸い形をした種だった。これを見るのは三度目だ。
「……あれ、もう持ってたか? 骨しかない何かの墓場みたいな場所で生えてたから貴重かと思ったんだけど」
ちょっとしょげた顔をするシルトだけど、今はどうでもいい。
「いいや、ありがとう。ところでシルト、その骨って持ってるか? 欠片でも良いから」
「おう、これでいいか?」
シルトのポーチから棍棒くらいの骨が出てくるとともに、魔素の煙が立ち上った気がした。
「すごいだろ、多分それワイバーンの骨だぞ?」
隣にいたミンシェンとリュオネが遠ざかったように、こんな量の魔素は浴びるものじゃない。
シルトはへらへらと笑ってるけど、もしかして、こいつ魔素を吸収する六花の具足をつけてから魔素の変化に鈍感になってるんじゃないか?
そんなことを心の中でぼやきつつ、骨を受け取る。
やたらと重い。
魔素を吸い取るついでに収納・鑑定した結果はやはり凝血骨(竜種)だ。
「シルト、あなたこんなものを隠し持ってたの?」
さっきまで遠巻きにしていたミンシェンが来たので渡す。
「この間の依頼で迷った場所にあったんだ。隠し持ってたってか、大量すぎて一気に売りさばける量じゃないからポーチにしまってたんだよ」
シルトが弁解している間も、骨を地面に置いて無言で叩いたりナイフを当てたり、変わった魔道具を当てたりしていたミンシェンが深刻そうに唸りながら顔を上げた。
「一般的な竜の骨は知らないけど、この骨は普通の血殻の何倍も魔素を貯めておけるわよ。このまま具足のレプリカの材料に出来そうなくらい」
なるほど、あれだけの魔素を放つのだから、通常の凝血骨より何倍も中身がつまっているってわけか。
ビザーニャに他国から運び込まれる血殻を奪わなくても、竜の骨が大量にあれば、なんとかなるかな?
――◆ 後書き・お詫び ◆――
作者、急病につき数日間床に伏していました。
そのため数日にわたり連載に穴があいてしまいました。
お待ちいただいていた皆様、大変申し訳ありませんでした。
今後も本作品をお楽しみいただければ幸いです。
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