第35話【ノーム(怒りの矛先)】

 やっぱりか、とばかりにため息をつくビビのとなりで、土魔法でつくられた壁をながめる。


 

 ようやく自分の置かれた状況を飲み込めた。

 頭の悪い新人か冒険者くずれか、その後ろにいる商人か。

 はめた奴が誰でも、とにかく僕らを問答無用で殺しにかかってきている。


「この岩壁の向こうには解除するタイミングを計っている魔術士がいるはずよ。ここまできたけど道をもどるわ」


 ノームに見つからないギリギリの所で待ち、ノームが通り過ぎ次第一気に逃げるってことか。

 入り口側から来た盗掘者達を殺すかもしれないけど、元々向こうが殺しにかかってきているんだ。気後れなんてしている場合じゃない。


 さっきの丁字路の近くまで戻って身を低くする。目の前で緩くカーブを描く道の向こうはさっきの丁字路だ。

 壁がたいまつの様なもので照らされている。

 索敵にも一体の強力な魔物の気配が感じられる。あれがノームなのか?


「今回盗掘されたのは火属性の練重層。だからノームは炎をまとっているのよ。あの光が丁字路の向こうに消えたら走るわよ」


 ささやくビビの声に無言でうなづく。


 光がどんどん強くなる。たいまつの灯りなんてものじゃない。

 家ほどの大きな者が焼ける時のまぶしい炎が坑道の向こうに満ちているようだ。

 圧倒的な光の暴力から目を離せずにいる。

 いや、おかしい。索敵ではまだ近づいてきている。


「こっちに向かってくる!? 一度下がるわよ!」


 ちょうど道半ばまできたあたりで立ち止まり改めて索敵をする。やっぱり近づいている。

 ノームは鉱床跡にもどるというけれど、それは少しでも残っている元の鉱石に引き寄せられてるんじゃないだろうか?

 だとしたら、とてつもなく嫌な予感がする。


「ビビ、もしかしてノームって灼炎石の結晶なんかに引き寄せられる?」


「え、そりゃあ鉱石を錬金術で結晶化させたようなものなら……ってあんたまさか!」


 驚愕と焦りの色を見せるビビの顔の前に、第一層で手に入れた灼炎石のナイフをさしだす。


「あああぁぁ、バッッッカァァァ! 駆け出しの冒険者がそんなものもってる普通!?」


 声を絞る代わりに全力でのけぞるビビをみて全力で申し訳ない気持ちになっている。

 知らなかったとはいえ、やってしまった。


 正直自分の想像力のなさに愕然としている。

 ノームが練重層を直しに来ると知った時に、いや、そもそもビビが灼炎石を採りに行くと知った時に持っていることを伝えていれば避けられたんじゃないか。

 頭の中を自責の念で満たしていると、しばらく地面にうずくまっていたビビが壁に手を突いて立ち上がってきた。息もだいぶととのってきている。


「とりみだしてごめん、一応、全力でその手にもった呪いのナイフをノームの手前に投げて。向こうが私たちに気づいてなければその場でナイフを取り込んで鉱床になってくれるかも知れない。多分無理だけど」


 冗談のつもりなのか、片頬をつり上げた絶望感がただよう顔で、ビビがあかるい坑道の向こうをゆびさした。



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