第34話【ノーム(盗掘者の罠)】


「魔物がいるかも知れないのに危ないだろ!」


「雑魚なんてとっくに逃げてるわ! とにかくこの一本道を抜けないと!」


 その魔物が逃げる原因を聞かせて欲しいんだけど、訊いても答えてくれない。

 走りながら話すというビビの後を追って併走する。事はだいぶ深刻らしい。

 

 最後に枝分かれした丁字路まで戻り、ようやくビビが走るのをやめた。


「ハァ……ハァ……あんた、ずいぶん平気そうね」

 壁に手を突き方を上下させているビビは、若干恨めしそうにこっちをみてくる。

 なぜにらまれているか分からないけど、それより何が起きているのか説明して欲しい。

「身体強化にはちょっと自信があるからね」


 実際はそうとうに余裕がある。事と次第によってはビビを抱えて走るほうが良いかもしれない。


「……まあいいわ。とりあえず最悪の事態は避けられたから、一息つくわよ」


 二人で壁に寄りかかって身体をやすめる。


「まず、ダンジョンの鉱床は自己修復するっていったけど、正確にはノームがしていると言われているわ」


「ノーム?」


「ああ、ノームという魔物がいるのよ。レアだから知られていないけど」


 魔物が鉱床を直していたなんて初耳だ。


「鉱床が尽きた時にノームは現れさまよい、鉱床のあった場所で自ら溶け、新しい鉱床になる、と言われているの。そこから平常時に鉱床が回復するのもノームがやっているんだろうと推測されているわ」


「鉱床になるだけの魔物か。なら——」

 人は襲わないんじゃない? 


——ァァァァア!



 突然した人の叫び声に僕の問いはかき消されてしまった。

 幾重にも重なる断末魔の叫び。普通冒険者はSPが削れきるまではこんな声を出さない。

 それに人のLPも個人差があるから普通なら一斉に叫ぶこともない。


 つまりなにが言いたいかというと、複数人を瞬殺する化け物がこの階層にいるということだ。


「……人を見つけたノームは見境なく襲ってくるわ。まるで盗人を罰するみたいに」


 誰か知らないけど、冒険者が発した断末魔は第一層の方向から聞こえた。つまりノームはこっちに来る。


「大丈夫よ。さっきもいったけど、ノームは鉱床を直すためにくるの。気づかれなければさっきまで私たちがいた鉱床跡に向かうはず。私たちはノームが通り過ぎるまで第三層側の階段近くで隠れていればいいのよ」


 落ち着きを取り戻したビビはニッと笑ってみせた。

 けれど、第三層へ向かう坑道を並んで歩くに従い、ビビの顔はふたたび曇り始めてきた。


「なにか心配があるの?」


「……うん、鉱床を掘り尽くすことは重罪。ノームが出た事を知られれば流通ルートは厳しく監視されるはず。だから今回の件を引き起こした盗掘者達は、ノームが出た事をしっている第二層の冒険者を」


 坑道は唐突に人工的な岩壁により塞がれていた。


「口封じに殺すでしょうね」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る