第03話【意外な存在感をしめすネコ】


 デニスとビビはまだ盾の強度試験をしている。

 デニスはともかく、私には技術者だけではなく責任者の仕事も残っているのでそちらをしてしまおう。


「ウィールドさん。今のうちに制式装備の供給と新装備の開発についておしえてもらっていいですか?」


「む、そうだな。そこのテーブルで話そう」


 そういいながらウィールドさんが書類棚に向かう。

 しばらく書類の束をひっくり返していたけど、みつからないらしい。

 

 ウィールドさんはため息をつきつつ、腰に差してあった木槌きづちをかまえ、何のためらいもなく目の前の柱を打ちはじめた。

 知らない人がみれば狂気のさただけど、何度もきた私なんかはもう慣れっこだ。


——ガンガンガンガン。


 うそ、慣れてない。無言で柱を殴り続けるドワーフめっちゃこわい。


——ゴィン!


 しばらくすると、叩いていないのに柱が勝手になった。

 これは上にいる人からの返事だ。

 もうすぐこっちに降りてくるだろう。

 私は作っておいた魔道具を起動する。


「やれやれ、寒くなってからヒマがあればすぐのぼりやがる。勝手に温室なんぞつくりやがって」


 ウィールドさんがぼやいていると、窓の外にみえるはしごをつたい、ハーフパンツをはいたネコ獣人がすべりおりてきた。


「せっかく暖まってきたのに……おや、クロネコだ。しばらくー」


「数日しかあけてないですよ。どうですジェシカ? 新しいオシャレアイテムは」


「黒髪に黒ネコ耳、いいねー。ウチらの耳をファッションにするなんてゆるせんけど……クローリスはかわいから許す」


 そういいつつジェシカは光学魔道具でつくったネコ耳を触ろうとして伸び上がる。


「ジェシカ、配備計画の進捗をまとめたファイルはどこいったかわかるか?」


「あ、それなら昨日更新してたからウチの机の棚だよー」


 書類を違う場所に置いていたのか。

 ウィールドさんはとくに怒ることもなく、廊下側の机の上からファイルを取ってきてテーブルの上に書類を並べていった。

 慣れかな?

 そんなことを思いつつ、ジェシカが入れてくれたお茶を飲みながら書類に目を通していく。



「ふんふん。魔鉱長銃は現在五割配備、クランの制服は今年中に全部配り終わるんですね」


「ああ、魔鉱銃は最優先で生産ラインを組んだからな。制服は縫製部の人間が増えたからラインが自体が増えた。予備も相当用意できるだろう」


「甲冑装備ですけど……さっきビビさんが見せてくれた素材で胸甲装備をつくれます?」


 紙面から目を上げると、ウィールドさんは渋い顔で腕を組んでいた。


「まぁ、そうくるわな。だが現状はきびしいな。さっき見た通り、相殺するにしてもけっこうな衝撃が生まれる。身体から離す盾にならともかく、甲冑にあの素材を使えば相殺の衝撃が中に入ってきちまうんだ」


 そういってウィールドさんがおなかをさすった。

 既に試したんですね。


 どうして私達があの素材を甲冑にしたがるかといえば、そもそも”盾”を装備する予定が無かったからだ。


 銃剣は撃つ時も、白兵戦をする時も両手で使うのが前提だ。

 盾をもつ余裕はない。


 銃剣をやめて、拳銃と盾にするという手も考えたけど、装備は兵種を問わず、なるべく同じ規格にしろって団長さまからオーダーが来てたから難しい……


 防具の開発は現状難航している。

 ザートがバルド僧兵から奪った魔鉱銃は、既存の防具を貫く。

 もちろん防具を分厚くして強力な付与をすれば耐えられるかもしれないけど、そんな重くてめんどくさいものを制式採用できるはずがない。

 元いた世界でも防弾ベストをのぞいて甲冑をきた軍人なんていなかった。


 今、団員は皇国軍時代の鎧を使っているけど、制式装備として工廠で作っているのは魔鉱銃を意識した板金革鎧だ。

 今後の防具開発は頭部と胸甲部のみにする方向で進める予定でいる。


 新式鎧にビビの魔法相殺技術をどうやって組み込むか、しばらくウィールドさん達と議論したけど、良い案がでなかった。


「んー、魔法相殺技術自体はすばらしいですが、どんな形で実用化するかはまだ考えなければなりませんね。スズさんに資料をもっていきたいので控えはありますか?」


 持ちかえるための予備の資料をジェシカが渡してきた。

 が、その上に見覚えのないらくがきがのっている。


「ジェシカ? これはなんです?」


「さっき話を聞いてる時に書いた、ただの思いつきー」


 読み込んでいくと、自分の顔色が変わるのがわかった。


「なるほど、鎧じゃなくマントにこの技術を組み込むですか……。縫製部の手があくから、量産も改善も可能そうですね」


「ジェシカ、こういうアイデアがあるなら先にいえ」


 ウィールドさんが怒るけど、ジェシカは涼しい顔だ。


「そこはほら、ウチは慎ましげな性格だしー」


 ジェシカが無表情にダブルピースをしてくる。

 有能なのに、あいかわらずつかみどころがないですねぇ。


 本当は現場の人と議論をして欲しいんですけど、スズさんやジャンヌさんと相性が悪そうですし、この話はやっぱりザート達の休暇明けまで保留にしておきましょう。


 というか、私も温泉につれてって! この間の温泉は仕事だから、ノーカンだからぁ!



    ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただきありがとうございます!


ジェシカは相変わらずウィールドさんの所で働いています。



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