第02話【大仕事の報酬——ゾフィさんの評価】



 ライ山での戦いが終わった後、僕たちは駆けつけてくれたトレヴィル少将率いる王国警備軍に後の事をまかせて帰った。

 拠点シリウスに戻ってからの事は、風呂に入った事以外よく覚えていない。

 それくらいMPじゃ計れない精神力をすり減らした。


「特使ってギルベルトさんだったんですね」


「ハハ、もはや【白狼の聖域】担当と見なされていますよ」


 ゾフィさんとあいさつをしながらギルベルトさんが荷物を丁寧に開いている。


 帰参して翌日以降は身体を休めつつ、アルバ神のシャスカとジョンとフリージアの三人と情報の交換をして過ごした。

 彼女らは第三十字街に来てもしばらく平和というものが実感できず呆然としていたけど、僕らと話していくうちに徐々に緊張がとけていったみたいだ。

 その際フリージアさんの寝起きが悪いとか色々とあたらしい事がわかった。

 けれど、今は大事な所だから頭のすみにおいやっておこう。


「白金貨二百枚を現金で用意しましたので、確認をお願いします」


「はい、では失礼します」


 今は人生最高の報酬を受領中なのだ。

 手早く正確に硬貨の枚数を確認し、問題が無い事を伝える。

 特使のギルベルトさんがゆっくりとうなずく。

 隣のゾフィさんにも確認してもらいつつ、書類を取り交わした。

 内訳は依頼の成功報酬としての白金貨百枚、再度封印をした事、さらにアルドヴィン王国の勢力を倒した事による追加報酬が百枚だ。


 書類を収納すると、ギルベルトさんとため息が重なる。

 真新しい冒険者ギルドの貴賓室に笑い声が響いた。


「いやぁ、肩の荷がおりましたよ。こんなに大量の白金貨を渡すなんて大商会だってしないでしょう」


「しないでしょうねぇ。白金貨になった時点でトラブル防止のためにほとんど手形で取引しますから」


 ギルベルトさんには負担をかけたけど、それでも今は現金が欲しい。

 いざという時に使えなければ意味が無いからな。

 取りたて、支払い、売買と、今頃どこの商会でも手形の処理に苦慮しているだろう。


(手形を買い占めたら——)


 一瞬だけ、バルブロ商会の手形を買い占めればどうなるかと考えてしまった。

 けど、金額は商会に決定的なダメージを与えるほどじゃないし、そもそも敵国の勢力からの要求を相手がのむとは思えない。


「どうかしましたか?」


「いえ……団員に分け与えるにはどれほど崩せば良いか考えてしまいました」


 ギルベルトさんに心配されてしまったのであわてて取りつくろうとなぜか笑われてしまった。余計な事を考えるものじゃないな。


 まだここで人と会う約束があるというギルベルトさんに見送られて拠点シリウスにもどる。

 らせん階段を上る途中、開発が進むドーム内を窓から眺めていると不意にゾフィさんに声をかけられた。


「団長、さっきギルベルトさんに【白狼の聖域】がうらやましいってため息をつかれてしまいました」


 いつもとは違うやわらかい声におもわず横を向くと、すこしうつむきながら口元をゆるめているゾフィさんの横顔があった。もしかして、笑ってる?


「えっと、うらやましいってなんで?」


「自分の言葉を思い出してください。儲けたお金を見て、部下に配る事をまず考える上司って、部下の立場からしたらぐっときますよ?」


 呆れつつも、眼鏡の下からのぞくようにこちらを見上げる目は笑っていた。

 たまにクローリス達と談笑しているのは見ているけど笑いかけられるのは初めてかもしれない。

 こうしてみるとゾフィさんは意外と童顔なんだな。

 

「そうか……本当は私利私欲の事を考えてて、ごまかすために言ったんだけど」


 自嘲気味につぶやく。

 言えないよなぁ、全額使えば復讐が叶うかも、なんて幼稚な事考えてたなんて。


「それは知ってます。団員にどれだけ渡せば不満がないか、昨日一緒に計算したんですから。だからこそ、嘘じゃないことも知ってます。そして、うらやましいっていうギルベルトさんの言った言葉は勘違いじゃないんです」


 私物の書類入れを胸に抱きながらゾフィさんは少し先を登ってしゃべり続ける。


「買いかぶりだよ。普段から損得の事しか考えてないだけだ。ケチとかシブチンとかことあるごとに言われるし」


 おもにバシルやデボラさんあたりからな。

 あいつら魔弾の消費が激しすぎるんだよ。

 あとウィールドさんも開発のためとかいって貴重な原料を遠慮無くつかうし。

 

「それは否定しませんけど、例えば魔弾だって節約する癖をつけなきゃ生死にかかわります。もし敗走した時に個人がお金をもっていないと生き残る確率が減ります。使うべき所があるから他を節約する。団長のケチは皆のことを考えている良いケチです」


 階段がつづくせいで少し苦しそうな声がらせん階段に響く。

 そんなまっすぐに褒められると困ってしまう。

 これがクローリスだったら、何が欲しいんだっていえるんだけど、ゾフィさんはそういう性格じゃないからなぁ。


「そんなケチな団長の下で働ける私は幸せ者だと、思ってます、よ」


 見上げると、らせん階段の終わりで少し息を切らせたのか肩を上下させているゾフィさんがこちらを見下ろして立っていた。

 表情がわかりづらい、彼女なりの満面の笑みで。





    ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただきありがとうございます。


まさかのゾフィさんで始まった第七章ですが、主役はリュオネです。

今後の展開をご期待下さい。


決してハーレムルートとかは無いのでご安心ください。


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