閑話【駆け出し冒険者ロイ】


    ――◆ 前書き ◆――

【ロイ】

コリーとジャンヌが率いる難民団に子供達だけで入ってきた強メンタルな猫獣人男子。相棒は熊獣人のマシュー

(参照)

4章 第19話【第二・第五小隊活動記録】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054893273873/episodes/1177354054898612514


    ――◆ 本 編 ◆――


〈ロイ視点〉


「ロイー、このバタピーはクルミの香りがするー」


「おークルミか、そろそろ収穫の季節だなぁ」


 日差しが穏やかになった午後、第三十字街の南部に広がる農園で俺たちは夏に植え付けた野菜の収穫をしている。

 野菜のつるを切ったり土を掘ったり、これまで単純作業にうんざりする時もあったけど、難民としてここに来てはじめての収穫だ。

 みんな笑いながら収穫を楽しんでいる。


 けど俺たち新米冒険者は農作業以外にもやることがある。


「おーい、ジャイアントモールが出たぞー」


 よし、今度は近いな。


「マシュー行くぞ!」


 パーティを組んでいる熊獣人のマシューと声がした畑のはしに向かって駆け出す。

 畑の魔獣駆除は早い者勝ちだ。

 俺もマシューも身体強化はそこそこ使えるので、他の奴らより早く現場につく事ができた。


「お、ロイ達か。じゃあこれからモートで土を掘るから逃がすんじゃねぇぞ?」


 土魔法を使える教官のモルじいさんに手伝ってもらい魔獣を倒させてもらう。

 これが第三十字街ギルドでの新人育成方法だ。

 少し前まで新人育成は王都でしか行われなかったけど、難民の中に冒険者になりたい人間が多かった。

 そこでザート団長とギルドマスターが新しい制度を作ったのだ。


 じいさんが魔法でほった大人一人分の幅の空堀の中にすべり降りると、子供の俺たちと同じくらいの体格をしたジャイアントモールが一体出てきた。


「マシュー! 穴から他のが出てくる前に倒すぞ!」


 空堀の反対側に降りたマシューと作業で使っている剣鉈を持ち、モールを挟み撃ちにする。

 剣鉈は農作業用だから刃が鈍いけど、突き刺せば十分魔獣に通用する。

 マシューが気を引いている間に後ろからめった刺しにしてすぐ倒したけど油断はできない。

 モールはだいたい群れを作っているからだ。

 思った通り、すぐにボトボトと二体のモールが出てきた。

 今度は俺たちが挟み撃ちされる。


「マシューこっちだ!」


 俺は正面の敵に突っ込んでいき、直前で飛び上がり、三角飛びをしてモールの後ろに着地した。

 これでさっきと同じ形になる。

 俺たちはこうして挟み撃ちにして一体一体魔獣を倒していった。


「ふむ。同年代じゃお前らが一番安定してんなぁ」


 駆除を終えて空堀からもどるとモルじいさんがほめてくれた。


「同年代で比べてたらいつまでたっても鉄級のままだよ。俺たちはもっと強くなりたいんだ。ザート団長なんて一か月もたたないで銅級になったんだろ?」


 土魔法を使ってくれたお礼にジャイアントモールの凝血石を一つわたしながら俺は自分に言いきかせるように言う。


「あせるんじゃねぇ。冒険者の中には登録する前から腕に覚えがある者がいんだよ。中でもザートやシルトは別格だ。くれぐれも比べんじゃねぇぞ」


 モルじいさんに注意されたので俺もマシューもおとなしくうなづく。


「わかってるよ。コリーの兄ちゃんにも無理すんなって言われてるんだ」


「んならいいんだ。収穫にもどれ」


 こうして俺たちは安全確実に魔獣狩りの経験を積んでいく。



 けれど、それが物足りない馬鹿も出てくる。


「アクセル達がいないらしいよー。警ら隊の捜索に僕らも参加して良いってー」


 居住区のヌマル亭で朝飯を食べていると、【白狼の聖域】の詰め所にいっていたマシューが駆け込んできた。マジかよ。

 昨日あいつらを見てないから下手すりゃ一日経ってるんじゃないか?


 狼獣人のアクセルのパーティは皇国人だからってでかい顔をしてたけど、行方不明なら探さないとな。

 飯をかき込んで集合場所の練兵場へと急いだ。


「……アクセル達の臭いがこっちにつづいてるー」


 網の目のような水路が通るロターの湿地だけど、土に残ったアクセル達の臭いをマシューの鼻は嗅ぎ分けられる。

 熊獣人だけあってマシューは前衛向きだけど、斥候もできるんだからすごい。

 最初に誘った時、本人は冒険者になることに乗り気じゃなかったけど、生き残りたいなら戦えるようになった方がいいといって説得した。


 これから始まる戦争でブラディアが負けた時はとにかく港に逃げる。

 助かるには身体強化の練度を高めるのが一番だ。

 そして練度を高めるのに一番効率の良い方法が冒険者になることだ。

 戦争で活躍したいとか、そういう考えは俺たちにはない。

 一緒の村から出てきた仲間たちを守れればそれで十分だ。


 それで十分なのに。


『ゲギャ』


 俺たちの前後には水から上がったゴブリンが二体立っている。

 そのうち一体の手にはアクセルが自慢していたショートソードがあった。

 まだ子供の俺たちがゴブリンの相手をするのはやい。

 絶対倒せないわけじゃないけど殺される可能性の方が高い。

 現にアクセルはやられている。


「マシュー、一対一でポーラを使うぞ」


「うん、わかった」



 俺たちは一歩前に出て、ウサギが出てきた時狩るためにポーラを取り出した。

 他の奴らは一本の鎖の両端に分銅をつけているけど、俺たち二人はわっかに三つの鎖分銅をつけた三連ポーラをもっている。

 こっちの方がいいとコリーの兄ちゃんに教わったからだ。


 剣鉈を左手に、ポーラのわっかを右手の指に引っかけ、分銅二つをゆっくり八の字に振り回すとショートソードを持ったゴブリンが警戒して一歩後ろにさがった。

 でもゴブリンは諦めずにショートソードを脇に構えて向かってくる。


 ショートソードよりポーラの鎖の方が短い。

 ゴブリンが鎖の間合いの外から斬りかかろうと振りかぶった。


『ゲァッ!』


 わっかを指から外し、手の平に隠していた分銅を握る。

 狙い通りゴブリンの上半身に向かって鎖分銅二本分の鎖が一直線に伸びていき、頭と腕に絡まった。


 十分に腕をのばせずもがいているゴブリンの腕をつかんで前に引き倒す。

 馬乗りになってゴブリンの喉に剣鉈を深く突き刺した。


「マシュー他に敵はいるか!」


 素早く前を確認する。


「大丈夫、周りに敵はいないよ」


 振りかえるとマシューが剣鉈をガチガチに握りしめて立っていた。

 自分の手を見ると、やっぱりおなじように握り込んでいた。

 固まった指を一本ずつ開いていき、剣鉈を鞘におさめてようやく息をついた。


「マシュー、しんどかったなぁ」


「こわかったよ。魔獣を倒すよりこわかった」


 戦い終わって二人でしゃがみこんで猿座りになる。

 尻まで地面につけたらおきあがれない自信がある。



 その後、アクセルの遺品を持って帰ると、兵種長のジャンヌさんが無言で抱きしめてくれた。

 僕らが倒したのはゴブリンより強いスイコという魔物だったらしい。

 夏に麦を刈り取ったあと、人がいなくなったから増えてしまったのだという。


「ロイー、もうそろそろスイコ狩りに行こうよ」


 今日も増えたスイコの討伐だ。

 人型の魔物を狩るのは最初は気が重かったけど、二、三日繰り返すと普通に倒せるようになった。


「おう、飯食い終わるまでまってくれ」


 ヌマル亭のふわふわしたおろし芋飯をかき込んで席をたつ。

 今日も生き残るために頑張ろう。

 


    ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただきありがとうございます。


難民の日常を書きたくなり閑話としてまとめました。

さりげなくモルじいさんやヌマル亭など、主人公の知り合いも移り住んでいます。


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