第03話【神様の悪戯】
冒険者ギルドで回生作戦の報酬をもらった翌日、僕は団長室で一人書類に筆を走らせている。
ここ数日、休息をとりつつ回生作戦で溜まっていた仕事をかたづけていたけれど、それも終わりが見えてきた。
昨日ギルベルトさんから受け取った報酬を分配する為の書類に決裁のサインをし終えた所で終了だ。
ふぅ、これで回生作戦関連の仕事は終わりかな。
作戦記録は団長としての回生作戦の記録も書き終えている。
他の参加者の分と照らし合わせて決定稿を作れば完成だ。
参謀室に書類を届けにいって自由時間にするか。
「ゾフィさんいますか……って、シャスカじゃないか、フリージアさん達はどうしたんだ?」
参謀室に入ると、窓ぎわのテーブルにひじをもたせ、シャスカが暇そうに文官の働く様子を見ていた。
地面につかない足をぷらぷらさせている様子を見えるとやはり十二歳程度の子供にしかみえない。
「王女さま、護衛の二人はどこにいったんだ?」
「装備を仕立てにウィールド工廠に向かったぞ」
かすかに眉根を寄せてシャスカがこちらをみる。
なぜか知らないけど、シャスカは少し僕を警戒してるんだよな。
何かしただろうか?
「一緒に行かなかったのか? 一応ティランジアの王女様と護衛なんだから」
シャスカは神だけど戦闘能力はあまりない。
だからアルドヴィンの手のものに誘拐される可能性が常につきまとう。
僕がシャスカの使徒となった事もあり、王国の依頼という体裁で【白狼の聖域】がシャスカを護衛する事になった。
神という事は隠さなければならないので、シャスカはアルドヴィンから亡命してきたティランジアの小国の王女、ジョアン叔父とフリージアさんはその護衛という設定でいてもらうことになったのだ。
「……」
「いや、まあ自由にしてくれてかまわないんだけど」
こちらが束縛するつもりが無い事をしっかりアピールする。
異界門事変の直前、ジョアン叔父達がシャスカを奪還するまで、彼女は封印の力が必要な時以外は幽閉されていたという。
だから【白狼の聖域】ではなるべく不自由は感じてほしくない。
「言われなくともしておるわ。ここに来てからずっと三人で行動しておったからの。そろそろ二人の時間をつくってやらねばとおもっておったのじゃ」
あの二人ならお前がリュオネの隣の部屋でぐっすり寝ている時に一階で酒を飲んだりしてるから気にしなくて良いのに。
「子供なのに変な気まわすんだな」
(気を回されてる側ってだいたい気付かないのよねぇ)
(部長も報われないわぇ)
後ろで文官の皆さんが何か言っている。
そういえばクローリスは今日は自分の部屋で仕事をしているはずなのに、さっき見たときはいなかったな。
問いただそうと振りかえると、目の前にシャスカの顔があった。
「なんどもいうが我は子供ではない! 確かに今代になってまだ三十年と立っていないが、人間からすれば立派な大人じゃろう。眠りに着く際、やむなくこの姿になったが、その前はフリージアより身長が高くてスタイルもよかったのじゃ!」
大人は仕事してる人の近くや人の耳元で大声を張り上げたりしません。
と言いかけたけど、数人当てはまらない人の顔が頭に浮かんだので口をつぐむ。
ひとしきり椅子の上で騒いだ後、今度は何やらしょげているシャスカを見て、なんだかいたたまれなくなった。
(あーあ、シャスカちゃん泣きそう)
(スズさんに言っとかなきゃ)
いや、いたたまれないんじゃない。むしろここに居たくない。
「シャスカ、ここにいても暇だろ? ちょっと気晴らしにいかないか?」
むりやりシャスカを参謀室から押しだす。
あれ以上あそこにいたら、スズさんにあること無いこと告げ口をされてしまいそうだ。
そしてその結果がろくな事にならないのを僕は知っている。
「ぬ、クランにはこんなものがあったのか」
フロアをぐるりと移動し、一番日が良く当たる南東のスペースの温室に到着した。
理由はもちろんプラントハンターとして集めてきた植物を増やす為にある。
「まあ、僕の趣味みたいなもんだよ。仕事が片づいたから土いじりでもしようかと思ってね」
そういって僕はポットや土などを順番に収納から出していった。
シャスカは珍しそうにフォクステールの穂を見上げたりしている。
「土いじりとは何をするのじゃ?」
「今日は、これを植えます」
==
【神種(バーバル神)】
神が使徒に力を与える際に使用する媒体植物
土に植えて増やすことが出来るが、二個以上種をつける事は
==
「異世界人から取り出したバーバルの神種か……」
真剣な表情でシャスカは親指大のしずく型をした透明な種を凝視している。
鑑定では育てれば稀に増えるとあったから育てて見ようかと思ったんだけど。
「……やっぱりバーバル神由来のものは生理的にいやか?」
「いや、神種はただの植物なので我はかまわぬが……クローリスには話したのか?」
神種は異世界人の身体すべてにある。
それを薬やなにかのように扱われるのは当人達からすれば気分の良いものではないだろう。
シャスカはそれを懸念しているのだろう。
「ああ、複雑な顔をしてたけど、戦力強化になるならと許してくれたよ。今回の活躍といい、クローリスには感謝している。しばらくは頭が上がらないな」
種を植えたポットをバスケットに入れ、陽が十分に当たる場所をさがす。
「ほーぉ、クローリスにはそんなに感謝しとるのか」
「僕は誰にだって感謝してるよ……でもクローリスは特別だな。事務、営業、開発みたいなクランの仕事だけじゃなくて、あいつがいると場が明るくなる。僕としても居てくれてありがたいと思ってる」
「ほうほう、そんなに大事か。本人が聞いたら喜びそうじゃのう。……ほれ、種をつるすなら、あっちの方なんてどうじゃ?」
なぜかシャスカがニヤニヤと笑みを浮かべている。
二人とも最初から仲が良かったからな。
なにか通じるものがあるのかもしれない。
「まあ、大事と言えば大事か……こういうのは口に出した方が良いというしな。今度機会があれば……」
そう話しながらエパティカの茂みを抜けると、真っ赤な顔をしたクローリスがオロオロと落ち着かなく周りを見回していた。
……なるほど、僕はシャスカにまんまと誘導されたわけだ。
「シャスカ、クローリスがここにいるっていつから気付いていたんだ?」
「フォクステールの陰にいたのを見かけてな。面白そうじゃから逃げられんように扉を塞いでおった」
意地悪く忍び笑いをするシャスカをクローリスが叩きはじめた。
こども相手に手加減をしているものの、本人の表情は必死だ。
僕はこの性質の悪い神の使徒になって本当に良かったんだろうか?
「ああ、そういえばちょっと休憩したら工廠に行くんでした」
ふとクローリスが我に返ってシャスカをたたいていた手を止めた。
「なにしに行くんだ?」
「ミンシェンが私達のいない間になにか開発したらしいんで、それを見に行くんですよ」
ふむ、どうせ後で見るだろうし、面白そうだから行ってみるか。
――◆ 後書き ◆――
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