第18話【船上の戦闘——シド港まで】
「二時方向、ナパが集団で来るぞ!」
「了解、テッド、耐火準備! ストーンバレット!」
航海士の指示に従い、船舶各方向に散った冒険者達が魔獣の迎撃に当たっている。
第二港を出発して数日、今日も僕達は護衛の業務についていた。
「正面、マーマンの群れがむかってくるぞ」
銅級の僕らが担当しているのは当然、一番負担が大きい正面だ。
「ファイアアロー・デクリア!」
うねりながら高速で攻める魚影めがけて魔法を打ち出す。が、面攻撃で仕留められるのは全体の六割といったところだ。
「正面、くるぞ!」
僕とリオンが構える所に八体のマーマンが一気に飛び上がる。
着地の瞬間に僕らがカウンターを加えたため、六体に減った。
マーマンは半人半魚の魔物で、鯨などの骨を加工した三叉槍を使う。
海では下位の魔物だが、さすが海でいつも泳いでいるだけあって、運動能力は陸上でもゴブリンの比ではない。
すぐに僕らは囲まれないように右舷左舷にとりついて一体ずつ倒していく。
僕が使うのはウィールド工房で手に入れた片手曲刀だ。
ここ数日で使い方に慣れ、攻撃魔法の補助なく武器だけで対応できるようになっている。
深く反った刀身によるトリッキーな動きが長所だろうか。
「すげえ……槍を全部切り落としちまった」
後ろで魔法を撃っていた護衛が呆けている。
見ているのはよみがえった古城の名剣を操るリオンだ。
ウィールドさんによって研ぎ直された剣の切れ味はすさまじかった。
そこに加えてリオンの独特な剣技だ。
左手の平を柄に当てる独特の動きは敵の武器をすりおとしながら螺旋状に突き込み、引く時も相手のどこかを傷つけていく。
立体的な足運びは乱戦にあって囲まれず、意志を持つかのような剣は踊り、魔物の槍を切り落としていった。
僕の後ろ、左舷前方を守っていた魔術士の後ろで、海面から登ってきた縞柄のオオアメフラシが毒を飛ばす姿勢にはいっていた。
「ファイア!」
魔法でひるんだ隙に二閃、毒を飛ばす器官と頭を両断した。
「気を抜くな!」
冒険者に激をとばしつつ、内心で仕方ないよなと毒づく。
熟練の航海士も、魔獣の襲撃が異常だと言っていた。
これが異常であることは皆が理解している。
「よし、ひとまず魔獣の襲撃は途切れました! 護衛の皆さんはその場に待機しながら休憩を取って下さい!」
その場に座り込んだ冒険者達に水夫達が水の差し入れをしてくれる。
「ザート、その曲刀にだいぶなれたみたいだね」
リオンが水を片手にやってきた。
リオンを見る男達の目は、彼女の剣が振るわれるごとに尊敬のまなざしへと変わっていった。
「うん、大体コツはつかめたかな。そっちの剣も良い具合にふれているじゃないか」
「そうだね。刀身もすごいけど、ウィールドさんの拵えが良かったからほとんど調整なしで使えてるよ」
水夫達が帆を張り直し、再び船足を速くする作業に追われている。
「あの人達も戦いに参加してくれれば良いのに……」
横で水を飲んでいた魔道士がぐちる。確かに大人数であたれば楽にはなるだろう。でもそうなると水夫の中にSPを超えたけがをする人が出るかもしれない。普通のポーションでは対応できないけがをすれば操船に支障がでる。
「今優先するのは最速で船を動かすことだよ。船員が全力をだせるように魔獣は僕らが引き受けよう」
朝にも言ったことを繰り返す。
「簡単に言いますけどね……、俺らはザートさん達と違って一杯一杯ですよ」
確かに皆、夜昼と終わりが見えない戦闘を続け、精神が追い詰められている。
航海士の話では遅くとも明日には陸地が見えるという話だったので、もう少しの辛抱だ。
——カーン、カーン、カーン。
船鐘がゆっくり三度ならされた。まわりの空気が一変する。
航海士が急いでマストにのぼり、水夫の見間違いではないか目視で確認する。
「陸地が見えたぞ! シドの港だ!」
膨らんでいた期待は安堵と共に爆発した。ようやくシドの地が踏めそうだ。
――◆後書き◆――
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