第17話【海岸で拾ったもの一覧】



   ――◆◇◆――


 ギルドから貸し出された日よけのコートをはためかせ、僕は遠くにかすむ第二港を眺めていた。

 今僕は生まれて初めて外洋船というものに乗っている。

 多くの船を持つ大商人であるフランシスコが用意した一番上等な快速船だ。


 僕とリオンは結局フランシスコから依頼された護衛の依頼を受けた。

 他にも個人依頼をうけた鉄級冒険者パーティが複数乗船している。

 一応位階が一番高い僕らが護衛のリーダーと言うことになっているけれど、乗船も護衛も初めての僕らは船の上ではお飾りだ。実際船上での指揮は熟練の航海士がとる。


「ただいまー、あぁーやっと帰ってこれた」


 後ろの階段からリオンが軽食を手に現れた。隣の木箱に座るなり盛大にため息をついた。


「もう、絶対! 一人にならない! ちょっと歩くだけで仕事放りだして色々言ってくるんだよ? いくら女一人だからってこっちの迷惑も考えないんだから信じられない!」


 珍しく怒っているリオンにそうだね、と相づちをうちながら差し出された軽食をつまむ。

 それはリオンが特別美人だからだ、と合理的理由はわかっているけど直接は言わない。

 言い寄ってくる男達の肩を持つようなことを言えば、こちらに飛び火しかねない。

 沈黙は金なり、だ。


「だからこれからずっと離れないでよね!」


——ごふっ!


 いや、そういう意味じゃない、というのは分かっているけど、無自覚な殺し文句に思わず飲んでいたエールをこぼしてしまった。


「ごめん、今後はそうするよ」


 船内を見て回りたいと言ったのはリオンだろう、という正論は絶対言ってはいけない。


 その後リオンは僕から離れなくなり、僕は恨みがましい目をした海の男達を一々目で牽制するはめになった。


   ――◆◇◆――


 他のパーティと見張りを交代した後、僕らは休憩をとるために船室にいる。

 ちょうどいいので、海岸で白いブロックを回収した時、ついでに回収した漂着物を確認することにした。


「第一回、ロター地方海岸調査、結果発表ー」


「うわー何がとれたんだろ? でも第二回はぜったいないよね」


「うん、ないね。何回かは次から省略しよう」


 リオンの冷静なツッコミに納得しつつ、タブレットを表示する。

 

 前回の反省を踏まえ、新たに回収したものは”新規収納品”として分けて表示されるようにした。

 早速そのカテゴリ内でソートして中身を見る。

 大量にあるだろうものは最初から非表示だ。



〖新規収納品〗

【武器】

さびたカットラス

三叉槍


「まあこの辺はね」


「予想通りだね」


【貨幣】

宝箱(銀貨二十三枚、金貨五枚)


「おおぅ……」


「おー……」


 期待していなかったわけじゃない。

 難破船から船金庫とかが漂着する可能性は十分にあるからだ。

 でも本当にあったとは……正直ちょっとひいている。


「これ、この間の海難事故の遺品かなぁ」


 リオンがすこし気味悪そうにつぶやく。

 やめよう? そういうの言い出すと夜の船室が途端に怖くなるから。

 探知に引っかからないアンデッドモンスターがはいよってきそうな気がするから。


「大丈夫。ここに入っているのは基本的に砂の中から出てきたものだから」


 自分に強く言い聞かせ、次に目を向ける。


【凝血石】

凝血石(低位)×30

凝血石(中位)×90

凝血石(高位)×2

凝血石(魔砂)×4000


 海棲魔獣の凝血石は基本的に他の魔獣に食べられる。

 そして食物連鎖の結果、リヴァイアサンなど竜種に集まり、陸上にある伝説の竜の墓所にあつまる、と考えられている。


 例外は船をおそって返り討ちにあった魔獣の凝血石だ。

 当たり前だけど、海の上の魔獣を魔法で倒せば凝血石は海中を漂って行く。

 冒険者も他の魔獣に襲われるリスクを冒してまで採りに行かない。


 そういった凝血石が結果として砂浜に漂着するのだ。


「高位凝血石が落ちてたのは予想外だったね」


「タイラントオルカが打ち上げられて死んだ、とかかな」


【スクロール(使い切り)】

浄化


「これってもしかしてザートが作ったもの?」

 

 リオンが期待と確信に満ちた目でこちらを見てくる。


「うん。宿で書いていた試作品。タブレットの鑑定で問題なく”浄化”って書いてあるから問題なく使えるはずだよ」


 リオンが声を上げずにジタバタする。表情からもちろん感激している事がわかる。


 難点があるとすれば、他の人達にやっかまれることか。

 でもそこは銅級冒険者として当然、という顔をしておこう。


【思い出の植物】

ローズウィップ


 棘のあるつる性の植物で、今の時期は唐突に真っ赤な実がついている。


「これはいつの間に拾ったの?」


「第二港についてすぐだよ。初めてブロックを拾ったとき」


「そっか。この実って昼にたべた奴だよね?」


 しげしげと持ち上げたりして眺めている。


「うん。酔い止めの常備薬らしいよ。初めての船旅なのに気持ち悪くならないのはこれのおかげかもしれないな」



【素材】

流木

ジオード塊

マダラエイの毒針

ストーンフィッシュのひれ

ケルピーの耳骨

リュウゼン香

ラピス貝の殻

アーノルドウミヘビの毒袋

ダンゴ貝の毒針

シーグラス

酒瓶(スクロール入り)

……


「なんか全体的に毒が多くない?」


「ブーツを履いているから大丈夫だけど、海岸って結構怖いんだな」


 毒以外に気になるものをいくつか床に並べてみる。


「ラピス貝って砕いて絵の具の原料にするんだよ。こんなに綺麗なんだね」


 宝石のようにつるつるとした藍色の巻き貝はそのまま飾りにしても良いくらいに綺麗だ。

 そういえばリオンは絵を描くんだったな。


「今何の絵を描いてるんだ?」


「んー、ザートの魔方陣と同じ、勘を取り戻すために色々スケッチしているよ。そうだ! ちょうどいいからこの貝とか流れ着いたものを描いていくよ」



「……っと、これはなんだ?」


 酒瓶にスクロール? なんで酒瓶にスクロールなんて入れるんだ?


「呪いのスクロール、とか」


 リオンがまた怖いことをいう。


「あるけどさ。でもこの大きさなら違うから大丈夫だよ」


 とはいえ、何かはわからない。

 今ここで開いて何かが起こったらしゃれにならないだろう。


「……これはどこか安全な所で確認しようか」


 保留案件とするけど、気になるからなるべく早めに確認したいところだ。

 まあ、本当にただの紙という可能性もあるんだけどね。



 この後も漂着物はどこから来たのか、とか色々話して過ごした。

 そのせいでちょっと寝不足になったけど、仕事に支障はなかったのでよしとしよう。







    ――◆後書き◆――


いつもお読みいただいている方、新しく目を通して下さっている方、ありがとうございます!


主人公のアイデンティティとして発掘をしていますが、これを閑話でやるべきか本編でやるべきかちょっと迷いどころです。

アイテムは確実に本筋にからむんですよねぇ……



フォロー&応援&★評価。いただければ筆者のモチベーションが上がります!


今後もどうぞよろしくお願いします!

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