第46話【新兵器とザートの無理】(2021年1月12日改稿)



 再出航の準備を終えたコズウェイ伯、ロジーナさん、オクタヴィアさん達も合流し、確認してきた本人であるバシルから詳しい情報をきく。


「戦艦四十隻……くわえて重装艦四隻だと?」


 ロジーナさんが絞り出すような声でうめいた。

 こちらの戦艦は二十程度だ。倍である。


 僕もその報せに、思わず海図の上に船の駒をのせていた手をとめてしまった。

 南方諸侯も同様に絶望的な顔をしている。違うのは不敵に片頬を上げて笑っているオクタヴィアさんくらいだ。


「ああ、途中でイエローワイバーンの邪魔が入ったから正確じゃねぇがだいたいそれくらいだった」


「イエローワイバーンがまだいたのか!」


「いや、四体程度だ。艦隊の規模に対して少なすぎるから斥候役を無理矢理飛ばしているんだと思うぜ」


 バシルの補足に思わずため息が漏れる。

 ここでイエローワイバーンがさっきの規模で来られたらさすがにまずかった。

 でも、いないのなら、今度はこちらがやり返せるだろう。


「クローリス、お前達は新ブラディアからワイバーンで来たんだろう? ということはイエローワイバーン部隊は仕上がったって事で良いのか?」


 クローリスに向き直ると、大きな仕事を終えた晴れ晴れとした顔でうなずいた。


「イエローワイバーン八体で編成されたカナリア隊、仕上がりましたよ! さらに言えば、技術部総出で開発を急いだ爆弾も持てるだけもってきました!」


「そうか! よくやったクローリス!」


 興奮したコトガネ様に頭をぐりぐりされているのを見ながら口元をほころばせたスズさんとうなずき合う。

 カナリア隊って、また勝手に名前をつけたのか。

 とにかく、これで攻略の糸口は見えた。


「けれど、根本の問題が解決していないぞ。例えば、数の不利は風上からロター要塞の前に追い立てて挟撃することができても、肝心の重装艦はどうする?」


 オクタヴィアさんが海図に乗せた大量の駒の中央の駒を指揮棒で指した。


「前回と同じく、僕が沈めてみせる」


 戦艦の数で劣る状態で、重装艦を一隻ずつ沈める余裕はない。

 僕が可能な限り早く沈める必要がある。


「できるのか?」


 僕の表情の微妙な変化に気付いたのか、オクタヴィアさんがかすかに眉根をよせた。


 僕はできない、という言葉を飲み込むために顎をひいた。

 ただ撃ち出すだけでは重装艦は抜けない。

 やはり複数の衝撃を砲弾に付与しなければあの多重障壁は打ち抜けないだろう。

 それをするには体内魔素を通る経路、回路に多大な負担がかかる。


 けれど、やるしかない。

 運良く制空権はとれたけど、状況が不利なことは変わらない。


 バフォス海峡付近で確認できていればここまでの不意打ちにはならなかった。

 戦闘に集中しすぎて敵の姿を見失った僕のミスだ。


「敵の第二波を見逃した責任はとります」


 僕は海図の上の多くの船の形をした駒を見つめながら答える。



 そのまま指揮所で作戦の即行でくみ上げた。


「私たちは敵をロター湾岸まで引き寄せ、風上であるグランベイ方面からから敵艦を要塞前まで追い込めば良いのですね」


 コズウェイ艦隊、皇国艦隊、南方艦隊の連合艦隊の総指揮はロジーナさんに任せた。

 そこからはワイバーンの時と同じくコリーが率いるロター要塞と挟撃してもらう。


「カナリア隊は大きく迂回して、敵の船尾楼を狙う、でいいですか?」


「そう。敵のイエローワイバーンはオルミナさん達に任せて爆弾を正確に落とすことに専念してほしい」


 仕上がったとはいえ、カナリア隊に実戦をさせるには不安が残る。爆撃担当と割り切ってしまった方がいい。


 それと長城壁だ。

 海岸から少し離れた所にはロターからグランベイに続く長城壁が続いている。そこを抜かれてしまえば敵は新ブラディアまで攻めることもできるのだ。

 逆にいえば長城壁は城壁であるので、寡兵でも守りやすくはあるんだけど。


「長城壁は我らに任せておけ! 例え上陸されようと、駆けつけた援軍と共にけちらしくれるわ!」


 勇ましく薄い胸をたたくシャスカ。

 気持ちは嬉しいけどシャスカ、戦う力は持ってないだろ?




    ――◆ 後書き ◆――


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