第10話【法具の使い方】


 安宿の布団の中で、バウンディングバグが目の前に迫ったあの時を思い返す。


 イノシシをどけて、バウンディングバグが見えた瞬間、すべてが遅く見えた。

 土魔法のために伸ばした右手をかすめる虫に、本能が生命の危機を感じた。

 身を守るため、右手に自分の魔力を流し込むと、全身からごっそりと魔力が移動した。


 同時に凝血石から流れる魔力とは違う、生き物が通るかのような独特の感触の魔力が、左手のバックラーから右手中指につけていた指輪に集まっていった。


 そして、発動していた土魔法が何かに書き換えられていった。

 指輪の求めに応じて魔力を手の平に集めると、目の前が青白く光る。


 炸裂音ともに此方に向かってくる甲殻は、眼前に広がった青い大楯に吸い込まれて消えた。


   ――◆◇◆――


 僕はあかるんできた空を見ながら、夢と疑いたくなるような昨日の経験を思い返し、井戸からくみ上げた水で顔を洗った。


「夢じゃないんだよなぁ」


 右手にした指輪の中央にある石は夜空のような群青だけど、中央はブルーモーメントという明るい色に変わっていた。

あのときの大楯の色と同じ、そして今目にしている空と同じ色だ。


 井戸のある庭から、余計なものは空間すら許さない、最低限の設備がひしめき合っている自室に戻った。

 朝焼けに染まった世界に続く窓に向かい、硬いベッドの上を歩いていく。


 テーブル代わりの荷箱の上に座って目の前の窓を開けると、さっきより明るくなったバラ色の空が広がっていた。

 結局昨日は一睡もしていない。

 左手のバックラー、右手の指輪。

 対になる道具はどう使えば良いのか、一晩かけて検証していた。


 自分の魔力を呼び水にバックラーの凝血石からさらに魔力を引き出す。

 魔力の質が違うような気がするが、手法自体は普通の魔法と同じだ。

 二つの道具にかすかな光がともる。


「発動」


 物を飲み込む大楯とは別に、左の手の平の上に青く光る板が浮かんでいた。

 開かれた左半分にはモノの名が箇条書きされている。

 その一つに右手の中指と人差し指を置くと、右側に文字が浮かぶ。


・バウンディングバグ〈かけら〉


「装填」


 バウンディングバグの文字が消え、指輪の光が強くなった。

 そのまま指を窓の外に向けた


「射出」


 指の先から黒いかけらが矢のように城壁の向こうに飛んでいった。


 手元の本からバウンディングバグの文字が消えている。

 やっぱりモルじいさんのいうとおり、バックラーと指輪は法具だった。


 光の平面を展開し、それを通過したモノを収納する『マジックボックス』の機能。

 収納したモノの情報を本に書き出す『鑑定』の機能。

 さらに、さっきやったとおり、収納したものを射出する事もできる。


『マジックボックス』も『鑑定』も最高位スキルとしては存在するけど、二つの機能をあわせ持ち、誰でも使える法具というものは聞いたことが無い。

 

 とりあえず名前をつけるか。

 これは書物の形をした倉庫だから、叔父の名前をとって『ジョアンの書庫』だ。こういう物は覚えやすい方がいいよね。


 改めて今後の事を考えてみる。

 これをもって何をするか。

 今からでも高等学院、さらに魔術学院に入って中央で出世するか?


 ないな。

 使っている内に法具だとばれて、魔法考古学研究所なんかに取りあげられる。


「やっぱり冒険者だろう」


 奪われないためには力が要る。

 

 光の板に浮かんだ文字に指を置き、すべらせる。

 現出した汎用ナイフを朝の光にかざした。


 冒険者なら武力として法具を使えるし、いざとなれば逃げる事も出来る。

 ジョアン叔父が冒険者でありつづけたのは、この法具のせいだったのかもしれない。


 僕よりずっと賢かったジョアン叔父だけど、僕と同じくまともなスキルをもっていなかった。


 多分叔父はこの法具を使いこなして魔獣専門の金級冒険者である狩人になったんだろう。

 僕もうまくやれば、狩人になれるかもしれない。

 狩人になれば、諦めていたものが手に入るかもしれない。

 この機会をのがすわけにはいかない。

 




     ――◆ 後書き ◆――


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