第9話【法具発動】


「――!? ……、……!」


 音がした後、モルじいさんと何人かの男性が坂を駆け上がってきた。

 しきりになにか言っているけれど、爆音で耳が聞こえなくなっている。


(耳が、聞こえ、ないんですけど)


 なんとか身振りで説明すると、おじさんの一人が状態異常回復のキュアを使ってくれた。


「あ、あー、ん。ありがとうございます」


 何があったかモルじいさんが問い詰めてくるので、イノシシをひっくり返したら長細い芋のような虫がいたこと、それがはねて多分破裂した事を伝えた。


「何なんですかねアレ」


「なんですかって、昆虫型魔獣のバウンディングバグだ。無事だったから良かったが、重いものを動かす時にいるときがあるって言ったろう」


 冬眠している時期だから平気だと言っちまったがな、といまいましそうにモルじいさんが答える。

 死体の下に潜んでいて、肉食獣が死体を動かしたりしたときに爆発するらしい。

 誰得なのかわからない奴だな。


「それにしても、よく生きてたなぁ」


 キュアを使ってくれたおじさんが半ばあきれたようにため息をはいた。

 バウンディングバグは時にパーティーが壊滅するほど危険なものらしい。


「ああ、それは――」


 法具が発動したから、という言葉を飲み込んだ。

 法具は基本国に取り上げられるものだ。

 持っている人は大体独自魔法などといって隠すものらしい。


「バックラーをとっさに前に出したからですよ」


 バグは放射線状に破片を飛ばした。

 だからごく近くまで接近して盾を突き出せば理屈では無傷でいられることも可能だ。

 そう説明すると一応みんな納得してくれた。


「ま、いいだろう。ザートは幸運にも無事だったんだ。イノシシもちょっといたんじまったが十分食える。とっとと売っ払って街で酒でも飲もう!」


 酒という言葉でやる気がでたおっさん達がツルと枝で即席のたんかをつくってイノシシをひきずっていってしまった。


「死にかけて疲れただろう。今日はもう上がるぞ」


 たしかに。あの爆発を受けた時は正直死んだと思った。

 帰れるならそれにこしたことはない。


「そうだった、ザート。お前明日から来なくてもいいぞ」


 え? ここに来てまさかのクビ!? 

 俺なにかやばいことした?

 草刈りは真面目にやったんだけど、やっぱりイノシシひっくり返したのがまずかったか。

 おそるおそるきいてみると、何言ってんだこいつという顔をされた。


「クビじゃない。その法具の練習には時間が必要だろ? 見つかれば面倒だから、隠れて森の中でするんだぞ」

 

 モルじいさんはバックラーを指さして笑った。

 




    ――◆ 後書き ◆――


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