第05話【ひねくれ猫の宿案内】

 歩きながら良い宿を教えるというので3人で工房を出た。

 ウィールドさんが古刀の研ぎに集中するので、もう店じまいで良いらしい。


「……『オウル』は手堅い、『ホテル・リベリオン』はたかめの宿だねえ。『フィトンルーム』と『ケーブベア』は中つ人差別があるから居心地悪いかも」


 職人街からギルド前広場に向かうため、城壁沿いに進む。


「中つ人差別って?」


「んー、中つ人の加入を認めないクランが上客だと、宿側が忖度して中つ人の宿泊を拒否したり途中で追い出したりするんだよねぇ」


 普段つかみ所の無い表情のジェシカが珍しく険しい顔をしているくらいだ。

 それは居心地が悪いというレベルじゃないな。


「その二つの宿を使っているクランの名前は?」


「獣人が中心の『バイター』とエルフがトップの『雪原の灯台』ー」


 雪原の灯台……、ああ、ノーム事件で調査した金級パーティが所属してた所か。

 あの傲慢なシャールのクランならありそうだな。もう一つのクランも推して知るべしだろう。


「どっちの宿も不快だったから次の日に飛んだ」

 

 辞めるのはいいけど飛ぶなよ。そこはフットワークの軽さを発揮する所じゃない。


「飛んだ?」


「無断退職だよ」


 きょとんとしていたリオンに教えてあげると顔が少し引きつった。

 もっとジェシカに幻滅していいのに。

 こいつは一日一回はからかったり嘘をついたりする奴だぞ。


 ギルド前広場に出てしまった。広場の南は宿屋街だ。


「まあ気にしないでー。ところで2人ともどこか入りたいクランとかある? 宿は冒険者にとって出会いのサロンだからねぇ。銅級がクラン御用達の宿で上級冒険者を出待ちするのは通過儀礼らしいよ」


 気まずかったのかジェシカは話題を変えてきた。

 クランか。僕の場合、クランのメリットを知っていてもはいらない理由があったけど、リオンはどうだったんだろう?


「リオンは興味あった?」


「ううん。一応どこかのクランには入ろうかな、と思ってたけど、ザートとパーティを組むから別に入らなくてもいいかな」


 書庫を持つ僕に合わせるため、とはジェシカに言えないからそういってくれたんだろうけど、その言い方だと僕が一騎当クランの猛者みたいに聞こえるよ?


「いやいやいや、2人とも生きる気あるんか。どっかの誰かとけんかになったらどうするんだ。”わいのバックにはクラン○○○がついてるんやで”が使えないぞー」


 生きる気が一番なさそうな奴に言われてしまった。

 

 確かに、クランとクランが直接けんかをするわけじゃ無くても、もめ事になったときに抑止力になるのは事実だ。

 でもクランに所属しなくても、名前を借りる事はできる。


「どこかのクランとは仲良くするつもりだよ。とりあえず今日は入っちゃいけない宿とクランが分かっただけでも十分だ。ジェシカ、話がそれたけど、結局おすすめの宿はどこ?」


 ジェシカがけげんな顔で振り返る。

 もう宿屋街も半ばを過ぎているから、手堅く『オウル』までの道を通ってくれたのか?


「もう着いてる。ウチの常宿ヌマル亭」


 目の前にはまわりの宿とは少し違う、赤い壁に虫カゴのような窓がついた二階建ての建物があった。


「変わった窓だね、出城だと木造の建物に泊まる機会がなかったからうれしいな!」


 リオンが独特のデザインがツボだったのか、はしゃいでいる。

 なるほどたしかに、よさそうな宿屋だ。ジェシカ良い所に住んでるな。


「ちなみに紹介料はいくらもらうんだ?」


「一割。ウィンウィンの関係だね」


 ダブルピースで挑発してくるジェシカ。

 そういば今日はこいつからなにもされてなかったな。


 まあ、クランの情報料として考えれば妥当か。

 なんだかしゃくだけど、そう納得しておこう。 


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