第30話【第一小隊が脳筋なせいでピンチ】


 第三十字街の下はバーベン領からのびる硬い岩盤の上に立っていて、基礎はしっかりしているけれど、表土はぬかるんでいたり、栄養が少ない。


 だから、僕がここに着いてしばらくやっているのは”客土”だ。

 六爵領から適した土を持ってきて、十字街の各地区の土と入れ替えた。


 南区にはグランベイ領の肥えた土を入れたので、良い野菜ができるだろう。

 居住する東区、工房街の北区、練兵場の西区には水はけがよく、かつほどよく引き締まったロター領の土を入れている。


 今僕と第五小隊は、優先度が一番低かった練兵場の客土の仕上げをしている。


「クランリーダー、こっちの土を固めたんでもう少し入れて下さい」


「はいはい」


 細かい調整はやはり専門家の方が綺麗にやってくれる。


「リーダー、排水溝を切ったんですが、傾斜確認のため水を流して下さい」


 小隊長のコリーがやってきて水魔法をねだってきた。


「小隊に水魔法使いくらいいるだろ?」


 ティルクで攻撃魔法をつかえる人は比較的少ない。

 それでも第五小隊は工兵部隊なだけあって三人は水魔法使いがいるはずなんだけど。


「いや、西区はリーダーがいれば大丈夫だろって他の区の確認にいかせちゃいまして」


 へらりと悪意なく笑うコリー。

 コリーは土魔法の腕を買われて軍に入ったらしく、貴重さ故にあまり前線には立たない。

 その辺りがこの緊張感のなさにつながっているのか……いや、天然か。


「誰でもいいから呼び戻して対応してくれ。僕はこれから用事がある」


「えぇー、ケチくさくないですか」


 けちくさくない。

 これからすべき何かはリュオネをのぞくクランメンバーにとって最優先事項だからだ。


「ここにいましたか、クランリーダー」


 いつもの看護服姿のスズさんがコリーの後ろに立っていた。


    ――◆ ◇ ◆――


 皇国軍の中で第一小隊は騎馬による機動力に優れ、第七小隊は索敵に優れているらしい。


 第七小隊が各街の獣人の代表に裏で接触し、獣人を街の外に連れ出す。

 しかし追っ手が出された場合、一般人の難民は足が遅いため、追いつかれてしまう場合がある。

 その時には第一小隊が押しとどめ、難民を安全圏に逃したのち、頃合いをみて騎馬の機動力を生かし戦場を離脱、合流する。


 スズさんが第一・第七小隊に出した指示は手堅く、監視の厳しい王都とその近郊の貴族領に住むティルクの人々であっても連れ出すことは容易、と思っていた。

 なのに、失敗してしまったらしい。

 自らの策がこうも裏目にでてしまい、さらに状況の打開を僕に依頼するはめになったせいで眉間のしわがすごいことになっている。

 オーガーでもそこまで深くない。


「これまで第一小隊に”撃破”され、面目をつぶされた貴族の領軍が王都北東部のネルヴィノ公爵領の平原に展開しています。クランリーダーにはどんな手段をつかってもよいので主力を足止めをお願いします」


 僕は眉間のしわをもみほぐした。

 もちろん自分のだ。

 本当に、第一小隊長はなんで足止め、っていう指示を撃破、にすり替えてしまったんだろう、


「スズさん、これ本当に僕一人がやるの?」


「一人だからいいんです。ブラディアの軍勢が領軍を阻んだり、ブラディアに難民が駆け込む現場を軍に押さえられてしまうと、王国、ブラディア国の両者は引くことが出来ず、なしくずしに戦端が開かれてしまいます。所属不明の個人なら相手が攻め込む口実にはなり得ません」


 戦端が開かれるのはまずい。

 戦争の準備以前に、こちらはやることが山積みだ。

 皇国に同盟を結びに行った子爵が帰ってくるまで、とはいわないけど、戦争が始まるのはできるだけ遅くあってほしい。


「それにしても、ビーコもリュオネも同行できないのか?」


 僕の質問にスズさんは冷たい視線で答えた。

 

「隠し球のビーコをできるだけ人前に出さないといったのはリーダーですよ。リュオネ様は見目麗しいため敵方の印象に残ってしまいます。そのため、こういったチマチマした足止めが得意な。メリハリのない見た目のクランリーダーが最適と判断しました」


 人を嫌がらせのプロみたいに言わないで欲しい。

 それとメリハリのない見た目ってのも地味に傷つくのも忘れないで欲しい。


 まあ、足止めをする、という意味で僕ほどの適任はいないかもしれない。

 ここは良い所を見せて、クランの皆にリーダーのすごさを感じてもらおう。




    ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただき、ありがとうございます。


難民移動でトラブルがあったため、主人公、久しぶりの単独戦闘です!


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