第31話【敵国との戦闘(1)】
ビーコの背中からみた眼下の光景は壮観だった。
アルドヴィン王国の中央地方の貴族が領軍を率いてこの公爵領に集い、それぞれの旗を掲げている。
人数で言えば五百はくだらない王国の連合領軍の方陣の威容は、未来の会戦を予感させる。
彼らも当然、斥候を多く放ち難民を連れた第一・第七小隊を探している。
にもかかわらず彼らが同じ位置にとどまっているということは、斥候が戻っていないのだろう。
つまり、斥候がよほど無能でないかぎり、第七小隊に無力化されているというわけだ。
一方的に敵を補足し、こうしてスズさんが僕を連れてくるまで隠れていられる、その時点で第七小隊は優秀だ。
「スズさん、第七小隊が凄腕なのがわかったからこそ聞きたいんだけど、第一小隊の隊長って、その……」
「ええ、阿呆ですね。ハンナという重装騎兵なんですけど、座右の銘が”包囲せん滅”ですからね。推して知るべしでしょう。彼女を押さえられるのは遊撃のエヴァか諜報のイネスですが、エヴァも違う意味で戦闘狂ですし、イネスは出払っていますし……第七小隊のポールには貧乏くじを引いてもらいました。もしかしたらいけるかも、とは思いましたが、やはり無理でしたね」
ポール……有能なのになんて不憫なんだ。
十字街に到着したらねぎらってあげねば。
「そろそろ目標地点です。降りてもいいですかー?」
「おねがいしまーす」
ビーコの肩に乗っているオルミナが振り向いて確認してきた。
僕らがいるのはビーコの腰のあたりだ。
機密事項を聞くわけにはいかないというオルミナさんの配慮である。
――◆ ◇ ◆――
「それじゃ、この谷の上で待ってるから、終わったら戻ってきてね」
オルミナさんがビーコを着地させたのは連合領軍の死角になっている岩山の裏だ。
「それでは、お願いします」
すごく気が進まないまま、僕はスズさんが乗りやすいように腰をかがめた。
見た目以上に重量感のある下半身が僕の腕に乗ってくる。
ついグランベイで手合わせした時のあらわになった下半身を思い出してしまった。
「なにか変な事を考えてませんか?」
腕のかわりに肩にかかる重みがふえていく。
さすがスズさん勘が鋭い。
そして爪も鋭い、ってか痛い。
「いいえまったく。じゃあ、下りますよ」
返事を待たずに、僕は谷底にむけて身体をおどらせる。
足の裏に大楯を展開し、飛び石をつくって谷底に向けて駆け下りた。
合流地点をこの谷に指定したのは僕がこれをつかって敵の追跡をまくことができるからだ。
スズさんは第一小隊隊長をしっかり十字街まで連れ帰る仕事があるので帰りは別だ。
「はい、到着しましたよ」
谷の出口に降り立つ。
敵の連合領軍は木々に隠れているけど、彼らの右翼後方に出られたはずだ。
「まだ別行動する地点は先です。このまま走ってもらってかまわないんですよ?」
上から目線で何を言っているのかなこの人は?
「体力は温存させてくださいよ。こっちはフォローなしの単独行動なんですよ?」
しぶしぶといった感じでスズさんが僕の背中から下り、僕らは敵の右翼を大きく回りこんだ。
途中にいた斥候はすべて避けていく。
後方に異常があると気取られてはいけない。
「……その速さ、身体強化だけですか?」
併走するのに飽きてきたのかスズさんが話しかけてきた。
「そうですよ。僕の魔法は有限ですからね。節約できるところはしていかなきゃいけないんです。そういうスズさんだってまだまだ速く走れるでしょう?」
走る、のかどうかは分からないけど、スズさんが他に高速移動手段をもっているのは確かだ。
軍事機密、といっておしえてくれないけど。
「……軍事機密です」
こんなかんじでね。
「そろそろ森を抜けます。クランリーダーはここで待機を願います。手はずどおり、私と第一小隊が敵と接触したら行動を開始してください」
「わかりました。気をつけて」
スズさんは一つうなずくと文字通り姿を消した。
気配が前に進んでいったので何らかのスキルを使ったんだろう。
軍事機密、ね。
さて、それじゃ、しばらく敵の斥候から逃げ回って待つことにしようか。
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