第50話【湖を歩き、川に下りる】
名前のとおり、巨大な生物の背骨とみまごう岩山と、その周囲の土をよこに見ながら馬車を進める。
今なお盤石な、開拓時代に優秀な魔道士がつくったであろう最後の石橋。黒ずんでなお崩れる気配のないアーチに登ってみた先は、湖に吸い込まれている。
堤防が決壊したせいで水に沈んだ放牧地は湖と言っても良いほど広大だった。
足首くらいまで水につかりながら馬と一緒に水音をたてて進む。
「予想以上に水が深いね」
足首を持ち上げるだけでも水が抵抗し、牧草がからまってくる。素早くよけたり懐に踏みこんだりは出来ないだろう。
「遠距離をメインにするべきだろうな。幸い僕もリオンも遠距離攻撃と索敵が使えるから、臨機応変に交代していこう。
「異議なし。敵が多すぎたりしたら私が楯や足場をつくるよ」
方針も決まった所で丁度よく索敵に反応があった。水属性のウェト・サラマンダーだ。
『ファイアアロー』
指輪に魔力を込め、書庫で合成したファイアアローを数本放つ。
ウェトサラマンダーは水面で一跳ねした後水の下に消えていった。
リオンが馬車から飛び降りてサラマンダーが沈んだ辺りに向かう。
「はい、取ってきたよ」
ゴブリンやコボルトと同じくらいの凝血石があった。
「水の中なのによくみつけられたな」
感心するとリオンは一層胸をそらす。なんとなくデジャヴが……ああ、水鳥をとってきた狩猟犬か。
「じゃ、今後は索敵している方が戦闘後に石を回収するってことで」
「りょうかい」
作戦はうまくはまり、特に苦戦することもなかった。
後は目の前に再び顔を出した道を歩いて行けば目的地に続くはずなのだが——。
「スリップするな」
二人とも馬車から降り、何度か馬に登らせようとするけれど、足が泥で滑り登れないでいる。
私にまかせて、というなりリオンは坂の上に一瞬で舗装路のような石の板を作った。
馬はその上にのり、苦も無く陸に揚がってしまう。
「今のはロックウォールの応用だろう? すごいな」
「でしょ。土魔法は上位までスキルをもっているよ」
なんで冒険者なんか、という言葉をむりやり飲み込んだ。
「そうか。さすがギルドから堤防の補修を依頼されるだけはあるな」
胸にたまってしまう熱い泥はこの世の理不尽に対する憤りであって嫉妬じゃない。
そこまでの才をもつリオンがなぜ冒険者を選んだのか。訊くつもりはなくても、疑問に思わずにはいられない。
胸の奥の疑問を踏み固めるように足を動かし、石の混じる牧草地の丘を登り切ると、驚きの光景が広がっていた。
眼下には堤防が伸びていて、少し先に行ったところでは大規模にのり面がくずれていた。
土の下に詰まれた岩が露出し、隙間からまだ水が流れ出している。
その向こうの光景に僕らは息をのんだ。
普通、堤防がなくても川の水面は地面より下にある。
だから増水した水が氾濫しても川底なんて見えないはず。
それなのに、地面に立つ僕らの目線より上に川底があった。
これはいわゆる天井川だ。
川に土砂が堆積して川底が地面より上に上がってしまっていた。
干上がった川底には水棲の魔獣達が呼吸できずに瀕死の状態で転がっていた。
「ザート、戦利品ってこの馬車に積みきれるかな?」
「水中にこんなに魔獣がいたのか、水中に魔素だまりがあるなら海の難所にも説明が……え?」
「珍しい魔獣の凝血石が取り放題なんてすごい機会だよ! はやくいこう!」
あっというまに丘を駆け下りて早くしろとばかりにリオンは手を振っている。
リオンさん、意外と切り替え早いですね。
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