第36話【リオンの客人(実家より)】
雨が降るほどではないうすぐもりの空の下、灰色の海を眺めながら、僕ら三人はギルドに帰る道を歩いていた。
アルバトロスと一緒に空を飛んでから一週間がたったけど、僕らはあいかわらず生産依頼をこなしつつギルド最上階に住む日々が続いている。
ただ、変わったこともある。
それはクローリスの努力の甲斐があってリオンの変身の魔道具がなおった事だ。
おかげで今、リオンの頭に獣耳はついていない。
「やっぱりなにもかぶらず外を歩けるって気持ちいいね」
街着の膝丈のスカートをはいたリオンは隣を上機嫌であるいている。
気づいていないようだけど料理屋の事件後、アリアベールをかぶっていようと、普段着ることがないような服をきていようと、リオンが白狼の候主と呼ばれる人物である事はほぼ、ばれている。
こっそりと僕に頭を下げる獣人は日ごとに増える一方だ。
もう少し自分の美貌に自覚を持った方が良いんじゃないかなこのお姫様は。
彼女が胸に抱えているのは古代アルバ文明遺跡で集められた魔法文字例文集だ。
僕とリオンはクラン設立準備が一段落したので、本屋に出かけてきた。
途中で合流したクローリスは今、血殻に興味があるらしい。
なにやら生薬以外の鉱物素材を買ってきたみたいだ。
「あ、プラントハンターさん、今ちょうどお客様がお越しになってますよ」
ギルドに入ると、いつも対応してくれる受付嬢のアンジェラさんが僕らの姿を見るなり小走りにかけよってきた。
「僕達を訪ねてきたんですか?」
近くに来るなりすこし小声で言ってきたので、こちらもつい声を小さくする。
「いえ、リオンさんを訪ねてこられたんです」
リオンを? このタイミングだと候主としてのリオンの関係者が来た可能性が高いな。
「リオン、必要ならついていくけど、どうする?」
買ったばかりの本をぎゅっと抱きしめて少しの間考えていたリオンだったけれど、
「うん、二人とも一緒に来て欲しい」
そう言ってアンジェラさんと客の待つ部屋に向かっていった。
――◆◇◆――
扉を開くと、ソファに浅く座っていた女性がすいと立ち上がった。
「お久しゅうございます。姫様」
従軍看護婦の制服みたいな灰色のワンピースを着た女性がゆらりとお辞儀をした。
暗緑色の長髪をゆるく三つ編みにしている。
それにしても、リオンはやっぱり姫様って呼ばれるんだな。
「ひさしぶり、スズ。用件は、まず座ってからにしようか」
「はい」
顔はかすかに笑みを浮かべているけれど、リオンの声はどこか硬い響きをもっていた。
出会ってすぐの頃のリオンに近いかもしれない。
「それで、パトラの駐屯地まで私の噂が届いたからここまでやってきたのか?」
町娘がはくようなスカートなのに、すそを押さえながらソファに足をそろえて座る姿はちぐはぐだ。
そしてお互い世間話をするつもりもないらしい。
「いいえ。姫様の道楽を邪魔してまでお伝えすべき緊急の事態が発生したため、急ぎ探してこちらまで出向いた次第です」
このスズという人、なかなか毒を吐くじゃないか。
「スズ、私は道楽で——」
「皇国駐留軍の王国からの撤退が決まりかけています」
リオンの気色ばんだ抗議の声にかぶせるようにしてスズさんが平坦な声を発した。
――◆ ◇ ◆――
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