第12話【騎乗魔獣確保】



「早く乗れ、逃げるぞ!」


 全属性に耐性のあるメドゥーサヘッドが約百体、こちらに向かっている。

 仮にリマキナを取りに向かっているだけで僕達が目的ではなくても見つかれば戦闘になる。

 倒せないこともないけれど、あの集落の個体が四分の一も減れば、まわりの状況は様変わりしてしまうだろう。

 ここは撤退だ。


 僕が祭壇で瞬時に舗装し作った道の上をデボラが操る馬車が走る。

 もちろん長城なんて後回しだ。いつでも作れる。

 この速さなら足の速いメドゥーサヘッドでも追いつけないだろう。

 そう思っていた矢先、スコープという名の遠見の魔道具で敵を見ていたクローリスから悲鳴があがった。


「魔獣に乗った敵の一隊がこっちに来ます!」


「魔獣に⁉」


 家畜まで持ってるのか。

 やつらの脅威度を引き上げなきゃな。

 仕方ない、近づいてくる奴等は倒してしまおう。


「馬を止めてくれ。デボラは待機、クローリスはこの場で狙撃。メドゥーサヘッドに高速上位土弾を当ててくれ。リュオネは僕と一緒に」


「わかった、行こう!」


 僕らは馬車から降り、適度に離れた場所でメドゥーサヘッドの別働隊を待ち受けた。


「リュオネ、騎兵を倒すために考えておいた戦法を試そう」


 うなずいたリュオネがその場で逆鉾ではなく魔鉱銃を取り出し、構える。

 本当は各個撃破でもいいけど、ここは多数の騎兵を一気に倒す戦法を試す。

 土煙を背にメドゥーサヘッドが横一文字に広がりこちらに向かってくる。


 リュオネの魔鉱銃の銃口から風魔法の残滓と共に中位土弾が発射され、敵の右翼の前にロックウォールを発現させる。


 左翼にも同様にし、最後に中央の先頭集団を右に寄せた。

 これで騎兵は縦一列に並んだ。


「クローリスと僕のライン上に敵を誘導したんだな。ありがとうリュオネ」


「うん、終わったらたくさん褒めてね」


 口元に笑みを浮かべつつも、リュオネの銃口と視線は敵に向けられたままだ。

 凜々しい横顔に一瞬目を奪われるけど、僕も右手に盾剣を取り出し、敵の縦隊に突進していく。

 敵も馬鹿じゃない。自分達が誘導された事にすぐ気づき、再び散開しようとするだろう。 


「ヴェント!」


 一瞬で身体強化を引き上げて間合いを詰める。

 メドゥーサヘッドが乗っているのは地上を走る鳥のカフィアに似た二足歩行の生き物だ。

 初めて見るあの生き物も気になるけど、それは敵を倒してから考えよう。

、軽く跳び、空にとどまりながら盾剣を右頬の横に構える。

 盾剣から伸びる二本の”角”の間に法陣を展開する。


「レナトゥスの——”ランス”!」


 法陣から射出された四ジィに渡る長大な総鉄製の馬上槍が、激しい衝撃音と共に先頭を走るメドゥーサヘッドの集団を空中に縫い止める。

 魔法に頼れないなら物理攻撃をするまでだ。

 けれど後続の敵は死体を避け、減速する事なく迫ってくる。

 次を放たれる前に僕を倒すつもりか。

 少なくともこの一隊は勇猛果敢を良しとしているのだろう。


 けれど、それは蛮勇という奴だ。


 背後から鞭を打ったような乾いた音したと同時に、メドゥーサヘッドの胴体が爆散し、後続のメドゥーサヘッドを巻き込んでいった。

 高速で飛翔したクローリスの上位土弾によるロックパイルだ。


 恐慌状態に陥った敵が突っ込んでくるので、長柄の斬馬刀を取り出し次ぎ次ぎとなぎ倒していく。

 数体を取り逃がしたけど、そこは心配していない。

 振りかえればちょうどリュオネが最後の敵を銃剣で突き伏せた所だった。


「お疲れ様。敵を一気に縦隊にさせる完璧な誘導だったよ。僕が倒せなかった敵を一瞬で倒したのも見事だった」


「ありがとザート。今回は十体くらいだったけど、いずれは一個小隊でも追い込めるようにしたいね」


 自らのあり方として強さを求めるのを止めない皇国の白狼姫は爽やかに微笑み、魔鉱銃をマジックボックスに収納した。

 音に反応して他のメドゥーサヘッドが来るかと思っていたけど、集団は大量のリマキナに夢中になっているのか、一体の影も見えない。

 とはいえ、早々に立ち去った方が良いだろう。

 神像の右眼に入らない荷物もあるし。


 メドゥーサヘッドの置き土産がである四体の騎乗用魔獣はおとなしく僕のうしろをついてきている。

 捕まえる時も特に暴れる事は無かった。

 収納した死骸の鑑定結果にはおとなしいとあるので僕達でも乗りこなせるかもしれないと思って連れてきたのだ。


==

・ガロニス(死骸):俊敏に走る鳥形の魔獣。翼はあるがほぼ飛べない。肉食だが性質はおとなしく騎乗に向く。

==


「ガロニスっていうんだ。うわー、ふかふかだよ」


 鑑定結果をみたリュオネがガロニスの首に抱きつき顔を埋めている。


 ガロニスの顔をおおっていたのは角だった。

 目の後ろから伸びる角が頭頂部で繋がり、くちばしに下りている。

 横からみると、顔の中心から刃を伸ばしているみたいだ。



「うわ、近くでみるとやっぱり顔が怖いですよ! 二人とも、そいつらを連れて行くんですか? その頭、頭突きされたら絶対痛い奴ですよ?」


 馬車にたどり着くとクローリスがさっそく抗議してきた。


「おとなしいから大丈夫だろう。騎乗できる魔獣というのは珍しいからな。幸い身体も馬より小さいし、カレンさんと合流したらシリウス・ノヴァまで持ちかえってもらおう」


「あー、チャトラが食べないようにカレンによく言いきかせてもらわないとねぇ」


 デボラの言葉に一瞬不安になる。

 確かにチャトラは食いしん坊だ。

 たまに見ていたワイバーンの食事では、大柄なキビラよりもたくさん食べていたんだから相当なものと言える。

 でも大丈夫だろ、大丈夫だよな?


 待っていた二人は最初は引き気味だったものの、出発してしばらく経つと、馬車の後ろをトコトコとついてくる顔ロニスに魅了されたみたいだ。


「全然嫌がってないですね、母鳥について歩くヒナみたいで可愛いです」


「ね、可愛いでしょ?」


「早く野営地であの羽根に顔を埋めたいね」


 御者台を僕一人に任せて三人で後ろを向いて盛り上がっている。

 釈然としない気持ちがないでもないが、リュオネも、他の二人も喜んでくれているならいいか。

 旅は楽しいに越したことはないし。



   ――◆ 後書き ◆――

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