第40話【ジョアンの秘密】


「私に聞きたいこと?」


 もう高くなった日が射し込む廊下は初夏の熱気を帯び始めていた。


「ええ、死んだ冒険者の足跡を追っているんですが」


 金級の彼らなら系統は違っても金級相当である狩人の事も知っているだろう。

 続けようとした時、斥候の男が割って入った。


「はいはいはいはい、そこまでだ。お前みたいな奴よく来るんだよ。前に酒を飲んだから、一緒に仕事をしたから、ってな。けどな、お前らみてぇな下の奴らが俺たちを覚えてても、逆はねぇんだよ。わりぃが他をあたってくれねぇか?」


 こいつはその”よく来る人達”が来るたびに突き放しているのか?

 最後の望みをかけて訊いているかもしれないのに、あんまりじゃないか。


「いや、ルギ。私もザート君に少し訊きたい事があった。先に行っててくれ」


 パーティメンバーを先に行かせて、シャールがこちらに向き直る。


「ありがとうございます。僕の事はザートでいいですよ」


「ふむ、では私のこともシャールと。私の方はたいしたことではないので先に訊くが、君はなんのスキルをもっている? ドワーフと荷物、数種の鉱石までももち、鉱山の出口からここまで一瞬で下りたというじゃないか」


 エルフが傲慢なのは当然だけど、真面目そうなこの人もやっぱりエルフだな。ギルドでもおおよそしか訊かないのに、最初にスキル訊くとかないだろ。


 こちらがうろんな目でみていることもかまわず話し続ける。


「優秀な人材は早めに目を付けておくのが上の階級の常識でね。我々は中つ人とは組まないが、他の金級冒険者は情報を欲しがるかも知れないからな。詳しく話を聞かせてくれ」


 まるで断られる可能性を考えていない。他の金級がこいつみたいではありませんように。


「その前にきいていいですか。金級で黒髪でソロのバックラー使いは覚えていますか?」


 叔父が人前でバックラーをつかっていたかは五分五分だけど、黒髪とソロ冒険者というだけで、だいぶ絞れるんじゃないか?


「バックラーに黒髪……? おい、そいつは金級じゃ無くて狩人じゃないか」


 みるまに不機嫌になっていく。どういうことだ? 狩人も金級の一種だろう。


「品格、社交、信頼。金級には力以外にもそろえるべきものが多い。魔獣と戦うことしか能が無い狩人などと! しかもよりにもよって黒髪のバックラーつかいだと?」


 怒りながら立ち去ろうとするので慌てて止めると舌打ちまでしてきた。品格どこいった。


「これは忠告だが、奴の事を他の金級冒険者やギルドに聞くな。最悪除名されるぞ。奴は金級どころか狩人の恥だ。引き際をわきまえず身を滅ぼしたのだからな」


「引き際ってどういう事ですか? 僕は死病と聞いていますが」


「病か。病といえばそうかもしれん。奴はダンジョンに魅せられ、魔人化しかけ、あげくに討伐されたのだからな」

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