第01話【モルじいさんとの再会】


 第二要塞のグランドルを出発して僕らは領都ブラディアに向かう馬車に乗っている。

 長城壁の途中にあるいくつかの休憩所や宿泊所に停まりながら数日かけてここまで来た。

 馬車がゆっくりとスピードを落とし、長城壁の出っ張った部分、側塔の上に馬車が止まった。


「はい着いたー。こっからブラディアまで休憩はないからな、しっかり休んどくれよー」


 御者の声を背に、すべての人が馬車から出て行く。もちろんリオンと僕もだ。


 側塔の上にも休む場所はあるけど、乗客の大半は塔を降りて下の水場をつかったり、ウッドデッキの上に寝そべったりして、疲れた身体を休める。


 僕も一通り身体をストレッチしてから石にすわり、森の方をぼおっと眺めていた。 

 この辺りの畑が拡がる土地はブートキャンプ時代を過ごした場所だ。

 目の前に拡がる畑の中の森をモルじいさんと一緒に掃除して回っていた。

 たった数ヶ月前の事なのにひどく懐かしい。

 それだけグランドルでの経験が濃かったのかな。二回も死にかけたし。


 ……ん? あれモルじいさんじゃ?


 森をみていると、長柄鎌を担いだ人が出てきた。

 そんなに距離も遠くないし、行ってみるか。


「誰かが駆けてくっと思ったらザートじゃねぇか。達者か?」


 くしゃっとした笑い顔と愛嬌のあるひげの主はやっぱりモルじいさんだった。

 それにしても相変わらず口悪いなぁ。


「ええ、鍛えてもらったおかげさまで」


「今城壁で停まっとる馬車に乗ってきたのか? 依頼か?」


「いや、ちょっと必要なものがあって第二レミア港に拠点を変えるんです。ついでに領都で装備も調えようかと考えてるんですよ」


依頼じゃないのがよほど驚いたのか、モルじいさんが大きな口を開けたが、なにも言わずに盛大に息を吐いた。


「身なりといい、羽振りが良くなるのにえれぇ早いと驚きかけたが、そういや法具持ちだったな。どうだ、つかいこなしてるか?」


 視線はとうぜん、僕の腰にあるバックラーにそそがれている。


 モルじいさんは僕のバックラーが法具だと最初に見抜いた人だ。

 僕が数ヶ月で他の街に拠点を移動できるほど余裕ができた事にも納得したんだろう。


「ええ、試行錯誤してますけどね」


 思わず苦笑してしまうけど、これは謙遜ではない。

 物の収納放出だけではなく、魔法の収納、加工その他と、驚かされてばかりだ。


「そりゃ法具ってえもんはそういう——ぉ?」


「ザート、話し込んでたから見に来たよ。知り合いの人?」


 こっちまで走ってきたリオンがモルじいさんを見て訊いてきた。リオンはお世話にならなかったのかな。


「ああ、僕がブートキャンプ時代にお世話になった先生のモルさんだよ」


「そうだったんだ。私は反対側だったから知らないのかも。モルさん、ザートとパーティを組んでいるリオンといいます。よろしくおねがいします」


 リオンが折り目正しくあいさつをすると、モルじいさんが笑顔を浮かべてうなづく。

 けれど次の瞬間には後ろに回りこまれて首根っこを捕まれていた。

 さすが教官だけあって素早い。


「おぅこらザート。おめぇ法具持ちのくせになにパーティ組んでんだよ。しかもあんなキレイどころとよ。なんだあの娘は貴族のご令嬢かなにかか?」


 いたいいたい、経絡決めないで、動けないから!

 話声が聞こえないくらい離れてから問い詰められる。


「僕と同じソロ志望だったんですよ。訳ありなんでしょうけど僕はきいてないです。法具の事は、色々あって知られています」


「ぬぅ、そういうやつか。それなら納得だ。むしろ協力した方がいいだろうな」


 うなずきながらリオンの所まで戻っていく。 

 リオンはよく分かってない顔をして笑っていた。まあ分かられても気まずいんだけどさ。


「嬢ちゃん、こいつから話は聞いた。こいつの法具を狙う奴らも将来出てくるだろう。その時は、あんたは味方でいてくれるか?」


「……はい。もちろんです」


 真顔で答えたリオンにモルじいさんはニィと笑みを浮かべてた。


「よし、なら良いんだ。二人で頑張んな。で、おめぇらのパーティ名はなんだ? 覚えといてやっからよ」


「ええ、パーティ名は『プラントハンター』です」


 パーティの目標と、”狩人”をかけてこの名前にした。

 これから先、この名前がブラディアで有名になればいいと思う。


「由来は二人で冒険者を引退する時に備えて、植える植物の種を集めて回ろうとしてるからなんですよ。ちょっと冒険者らしくないかもしれないですけど」


 ん? モルじいさん、なんでそんな驚いて……え? リオン、なんで顔を手でおおってるの?


「ザート、もうすぐ出発の時間だよ! 私先にもどってる!」


 そういうなり、リオンは全力で走り去っていった。なんなの?


「良い名前だな。けど一つ忠告しといてやる。他人に聞かれてもその由来は教えるなよ? 後付けでもいいから、嬢ちゃんに適当なもの考えてもらえ。ほら、とっとと追っかけろ」


 はぁーと残念な顔をされてシッシとされた。

 

 モルじいさんもか。

 リオンも良い名前だって賛成する割に変な反応するんだよな。なんなの?

 






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