第02話【受付嬢が話を聞いてくれない】
なぜかあの後ブラディアに着くまで、リオンが目を合わせてくれなかった。
馬車はブラディア前広場の駅舎に停まった。
「はい皆さんお疲れ様、ブラディアに着いたよ。忘れ物には気をつけてくれ。責任もてないからなー」
やる気がなさそうな御者の声を聞きながら第一長城壁に降りる。
ここでシルトと一緒に出発したんだった。
あの時はこんなに早く戻るとは思わなかった。
あいつは第二レミア港にいるはずだから、拠点を移してなければ向こうで会えるだろうな。
「すいません。今日、青い髪のリザさんは出勤されていますか?」
ウサギ獣人の受付嬢に取り次ぎを頼むとすぐに呼びにいってくれた。
頼んだのは手紙を渡すためだ。
グランドルを発つ時に、マーサさんとリズさんから預かっている。
でもリザさんって僕の記憶が確かなら……
「お待たせいたしました、リザです」
目の前には僕が冒険者登録の時にお世話になった受付嬢さんがいた。
「ザートです。ブラディア山第二要塞支部のマスター・マーサとサブマスター・リズよりお手紙を預かって参りました」
相変わらずきっちりした服装のリザさんに手紙を二通差し出した。
日々新規登録の対応をしているだろうから、こちらの事は覚えていないだろう。
「あら、マーサと妹からですか。ありがとうございますザートさん」
メガネの奥ですこし目を見開き、マーサさん手紙を開きはじめた。
やっぱりリザさんとリズさんは姉妹だったか。髪の色と雰囲気が似ている。
それと、なんとなくだけど、こちらの事を知っているみたいな口振りだな。
「まだ数ヶ月なのに、装備もずいぶん整えられたようですね。リオンさんも」
手紙に目を通しつつ、リザさんは少しいたずらっぽい、得意げな表情をしている。
僕達の事を完全に覚えていたみたいだ。リオンもびっくりしている。
「なるほど、お二人とも、向こうではだいぶご活躍されたようですね。此方で位階の刻印を押して欲しいと書かれていますよ」
興味深そうな目で此方をみてくるけど、こちらはマーサさんが古城の件をバラしたんじゃないかと気が気じゃない。エルフとの確執なんて面倒はごめんだ。
「書かれている内容が気になりますか?」
リザさんは妹のリズさんと同じく有能だった。こちらの考えを察して来てくれる。
差し出されたマーサさんの手紙の内容を見てみる。
『リザ久しぶり。ザートとリオンっていう奴らがこの手紙を届けたろうから、パーティ登録と位階上げしといてくれ。位階は鉄級一位だ。詳しくはジョージに口止めされてるから言えないが、腕はあたしが保証する。上げすぎだって本人達がうるさそうだからお前の方で黙らせといてくれ。上を目指すなら自重してる場合じゃないってな。じゃあな マーサ』
字が汚い……、じゃなくて!
「リザさん、僕ら今、八位と九位なんですよ? 一位ってむちゃくちゃじゃないですか!?」
「そうですよ! もし指名依頼なんて来たらどうするんですか!」
しゃくだけど、マーサさんの予想通りの反応をしてしまう。
和やかな笑みを崩さずに僕らの抗議を聞いているリザさん。
まったく動じてない。なにこの不動心!
「大丈夫ですよ。普段の依頼は出来る範囲で結構ですし、指名依頼も断っていただければギルドの方で処理します。万一緊急招集が出される場合もあるでしょうけれど……マーサが腕は保証するって書いてますし、切り抜ける自信はあるんでしょう?」
上を目指すなら、と挑戦的な目で微笑まれるとなにも言えなくなる。
たしかに法具がばれるのが問題なのであって、普通に戦う分には問題ないのだ。
リオンの方をみて、二人で仕方ないとうなずく。
「では、二人の冒険者証をお預かりしますね」
鉄のプレートを受け取ったリザさんが打刻用のタガネと、鑑定機のような魔道具を引っ張り出してきてしばらく操作する。
「あの、リザさん、その魔道具はなんですか?」
打刻が終わったリザさんに、不安になったので聞いてみると、リザさんは変わらない笑顔でにっこりと答えた。
「なにって、プレートに銅級冒険者を証明する銅板を貼り付ける魔道具ですが?」
「僕達鉄級一位になるんですよね? 銅級昇格試験も受けてないですよね?」
「本日付で、鉄級一位、つまり銅級昇格の要件を満たしている冒険者はすべて銅級十位にすべしという通達があったんですよ」
このタイミングでとんでもない情報が知らされた。
昇格試験なしで銅級に!?
そしてリザさんは僕らが驚いているのをよそに、サクッと魔道具にプレートをさしこんだ。
「ちょっとまってリザさん。心の準備とかあるから。辞退することってできません? あるいはリザさんがみのがしてくれるとか」
「できません。お役所仕事ですから」
笑顔で魔道具を起動すると、一瞬おくれて魔道具の光が瞬いた。
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