第37話【敵国との戦闘(7)〜スズの視点】


 その後、一進一退の魔法の打ち合いが続いた。

 打ち合いといっても、クランリーダーが使う魔法は接近戦に持ち込むために放つ牽制の下位魔法だ。

 対するガストンは中距離を保ちつついたぶるように中位魔法を撃っている。


 私にはこの戦いの意味がわからない。

 書庫には上位魔法すら入っているはずなのに、クランリーダーは法具をいっこうに使わない。

 自分が脅威だと思われないための偽装工作?


 頭に浮かんだ予想はおそらく正しい。

 それなのに、身体強化も満足にせずガストンへと追いすがっていく彼の姿を見ていると、偽装工作だけではない様に思える。

 

「しつっけぇな! もうお前じゃ俺に追いつけねぇんだよ!」


 低いうめき声に顔を上げるとクランリーダーの右腕から血が滴っていた。

 SPが尽きるまでして、彼は何がしたいんだ?

 もう彼は普通の魔獣と変わらない。攻撃された身体には激痛が走り、身体能力は下がっていくばかりだ。


「な? 分かったらここで死ねよ。お前を持ちかえったら学院の全員の笑いが取れるんだよ。ターゲットを逃がした失態もそれでチャラだ」


 ガストンは手に持ったメイスを振り回して肩に乗せた。

 最初の余裕を完全に取り戻し、再びにやけた顔で勝ち誇っている。


「高等に進んだ奴らは皆お前を気にかけてるんだぜぇ? バルブロ商会との契約を守れなかった赤っ恥のシルバーグラスはヴェーゲン商会を手放したって貴族の間では有名だからなぁ? お前の妹も今頃はバルブロの坊ちゃんにかわいがられているだろうなぁ。くっそうらやましい」


 思わず私は息をのんだ。

 政治にくらべればささやかなゴシップだけど、皇国軍が収集した情報を管理する身として、シルバーグラスの件は小耳に挟んでいた。

 クランリーダーがヴェーゲン商会の嫡男だったのか。


 未だ動かない領軍の貴族達も含み笑いをし、意味がよく分かっていない一般兵もお追従のように笑い始める。


 けれど、クランリーダーは表情を変えることも、言い返すこともしなかった。


——鋼よ。我が意にそって事を為せ。


 その代わり、一言、ボソリとつぶやいた。

 先ほどより冷え切った彼の詠唱はさながら呪詛のように私の耳を震わせたけど、嘲笑の波によりガストンには聞こえなかったようだ。


 一瞬で鋼糸で編まれた網が地面から飛び上がりガストンを包む。


「くっ! 下位地魔法の”鋼糸”くらいで俺を止められると思うな!」


 ガストンが鋼糸を焼き切ろうとしたのか、メイスが朱く光る。

 けれど、魔法を当てられた鋼糸は朱くなっただけで切れることはなかった。

 逆に鋼糸は土の中に沈んでいき、ガストンを完全に地面に縫い止めてしまった。

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