第10話【過去の英雄たち】

「骨?」


 疑問に思いながら収納すると、辺りが静かになっている事に気づいた。

 後ろを振りかえると、やはり戦闘は終わっていた。

 ただ、眼前には普通とは異なる光景が広がっている。

 オーク達の死体が消えずに横たわっていたのだ。


「ザート! こっちに来てくれ!」


 死体の向こうでアルマンが槍を振り上げていた。


「見ての通りだ。死体が消えねぇんだよ」


 飛び石で戻ると、アルマンが気味悪そうに死体を槍でつついていた。

 他の皆もどうしたものかと見ている。

 ミノタウロスが残したのは骨だけだったけど、燃やさなければミノタウロスも死体を残しただろうか。


「ちょっと待ってくれ、ミノタウロスの骨を持ってきてるんだ」


 タブレットを出して収納した骨の情報を見た。

==

【凝血骨】

渡界とかいした魔獣が捕食により成長させた凝血石。

骨に十分な魔素を吸わせた魔獣は受肉し、はくを得る。

==


 ……知らない用語が多いけど、受肉っていうのが、文字通り肉が残っているのに関係してそうだ。


「どうやらこれは魔物の体内で成長した凝血石らしい」


 ミノタウロスの一ジィ以上ある腕骨を取り出してみせる。


「鑑定結果はその光る板に書かれているのですか? ちょっとみせていただけますか」


 僕の”神像の右眼”という法具を持っている事はここだけの話という事にして皆に伝えた。

 喧伝するつもりはないけど、調査依頼という性質上公開した。

 隠していると逆に不審に思われてしまう。


 ギルベルトさんにタブレットを見せると、眉間にしわを寄せてうなっている。

 どうやら異界門事変の記録を持つ軍にも、死体が残るという情報はなかったようだ。


「……とりあえず、これどうするんだ? 帰りもじゃまになるだろこれ」


 バスコが槍で肩ををたたきながらこちらをみる。

 アルマンとペトラも僕の方を見ている。

 

「確かに。とりあえず僕が収納しておく。邪魔になったら……ビーコが食べるかな?」


「食べさせるわけないでしょ!? ビーコに死体処理になんて絶対させない!」


 オルミナさんから怒られてしまった。


「野生の竜種は魔物も食べるけど……これを食べるビーコを見るのは嫌かなぁ」


 リュオネが困ったように笑うと、この場の大半の人が同意とばかりにうなずいた。

 僕だって思いつきで言ったのに、ものすごい逆風を感じた。




「気をつけてくれ、そろそろ異界門が近い」


 ギルベルトさんの声で一行が改めて警戒を強める。

 僕も浄眼をつかい視界を青にした。


 周囲は黒いすべすべした岩で埋め尽くされている。

 火山から流れ出した溶岩が、まるで時間ごと固まって真新しい光を放っているようだ。


——光?


「魔人が来るぞ!」


 いうと同時に大楯を展開すると、表面が波打った。

 何かが収納されたという事だ。

 視界に一瞬タブレットを表示させると短剣が十本も入っていた。


 フリージアと同じ魔素の白い光を身体にまとわせて七体もの魔人が襲ってきた。


「円陣を組め!」


 この場の指揮官であるギルベルトさんの命令で五つのパーティが一斉に円陣を組んだ。

 敵の装備は二体が皇国の軍装、五体が王国の冒険者だ。


「青い両手剣、獅子の盾、緋色の羽根飾り……畜生! 金級の先輩たちだ!」


 アルマンが叫ぶと同時に飛び込んできた身軽な魔人の足を払うけど、魔人は一回転して避けた。

 アルマンに伸びるホウライ刀をカンナビスの盾持ちが払い落とし、別の長剣使いが雷閃のごとき一撃を放つが、魔人はかろうじて後ろに避けていた。


「ザート、ロックウォール!」


 ギルベルトさんの声にこたえ、上空から魔鉱拳銃を連射しロックウォールを作り出す。

 これで、七体の魔人を三分割できた。


 皇国の身軽な二体がカンナビスに、王国の剣士らしい二体がネフラに向かった。


「各パーティ、眼前の敵に集中してくれ!」


 白狼の聖域の前には三体の魔人が迫っている。


「一体ずつ倒すぞ! オットー隊、右を狙え!」


 即座に応じたオットーが大身槍を横薙ぎに振るい、緋色兜の魔人が後ろに回るのを防ぐ。

 援護に来た獅子の盾の魔人をジャンヌが弓で牽制して合流を防いだ。


「カハァッ!」


 青い両手剣をもった魔人と切り結んだデボラさんが一瞬で後ろに弾き飛ばされた。

 雷の属性をもった武器か!


「切り結ぶな! リュオネ、少し時間をくれ。僕が魔法で仕留める!」


 リュオネの素早いロックウォールとモートの展開で魔人の動きが鈍るうちに、浄眼をつかって魔人の周囲に大楯を十一枚展開した。


『ヒュプレシード = ディケム・フランカニバス!』 


 爆発する暴風に縫い止められた魔人は全方位から殺到した炎の猟犬によりかみつかれ、倒れた。


「とどめ……!?」


 その時、白い光が不自然な軌道を描き、僕らの真上を通り過ぎた。

 手甲をつけた皇国の魔人か、あれだけ高く跳ぶなんて、スキルが使えないと油断した!


「ギルベルトさん!」


 わずかに離れていたギルベルトさんに魔人の刀が迫る。

 浄眼を使いギルベルトさんと魔人の間に大楯を展開する。


——通常の魔法、落城の岩はあの素早い魔人に避けられるだろう

  魔弾は手甲ではじかれるだろう

  必要なのは圧倒的な速さと回避をゆるさない面による攻撃

  そして、魔人を屠ってきた圧倒的な経験——


「たのみます!」


 ギルベルトさんにせまったホウライ刀を阻んだのは、同じ皇国にあって異なる進化を遂げた武器。

 コトガネ様の魔人を狩る逆鉾の十字が、刀身を確かに受け止めていた。




    ――◆ 後書き ◆――


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