第18話【新式魔弾の試し撃ち】

 クラン拠点から外に出たとたん、大通りに強風が吹き、左肩のマントがめくれた。

 普段見せている墨色の裏からみえる正式礼装の白銀色が秋の陽に映える。


「少し寒くなってきたねぇ……ックチッ!」


 リュオネが幹部マントの下からインパイアパープル色をした防寒用の内マントを引っ張り出して肩にかけた。


「大丈夫かリュオネ?」


「大丈夫です?」


 季節の変わり目は身体に負担がかかる。

 なんだかんだいってまだ休暇を取ろうとしないリュオネが体調を崩さないか心配だ。

 いつも笑って大丈夫、としか言わない。

 今回も同じなので、そっとため息をつきつつ自分も緋色の内マントを肩にかける。


「こんな寒い日はバーベン領の温泉が恋しくなります」


 地上への階段を降りつつ、モスグリーンの内マントを羽織ったクローリスが指の先に息をかけながらグチをこぼす。

 三人で向かう先は北区のウィールド工房だ。


「この間行ったばかりだろ。それで、ウィールド工廠では今何人の人が働いてるんだ?」


 ウィールド工房は正確にはもう工房ではない。

 ウィールドさんにも団員になってもらい、クランの武器を作る技術部をまとめてもらっている。

 建物も工廠としての設備を整え、どんどん人を雇っている所だ。

 といっても、その分野はクローリスとゾフィーさんに任せてしまっているけど。


「んーと、鍛冶師さんが八人で、土魔法でお皿をつくっていた陶芸家さんが十五人、で、あとは魔鉱の加工ができる錬金術師さんとかですね。付与術が使える人は少ないです」


 クローリスの説明をきき、意外と多いことに驚く。

 旧皇国軍が連れてきた後も難民は確実に増えているから、そのせいかもしれない。

 人材に困ることはなさそうだ。


「ウィールドさん、おはようございまーす」


 クローリスは迷うこと無く作業室の一つに向かい、扉を開ける。

 一階にある部屋の窓からは長細い中庭が見える。

 あれは開発した魔弾を試射するためのものだ。

 個々からはみえないけど、中庭が終わる所には上位魔法でも平気な血殻でつくった設備がある。

 

「おう、来たか。じゃあ始めるか」


 今日はようやく完成した新しい種類の魔弾の試射をするためにきた。

 プラントハンターの皆が開発にかかわっている。

 最近別々に仕事をする事が多くて、こうして三人が集まるのは貴重かもしれない。

 いざというときの連携を確認するため、ニコラウスの森に行くか。


 ウィールドさんが既に用意していた魔鉱銃と魔弾をかつぐのを見て、外に続くドアを押さえる。

 中庭なので十字街ほどではないけど、やっぱり風はつよいな。


「まあ、今回のこれは留め山まで行かないから風は大丈夫だろう。ほれ」


 そういってウィールドさんは魔鉱銃と開発した魔弾をクローリスに差し出す。

 当たり前だけど、この中じゃ銃の扱いはクローリスが一番上手い。

 けれど、クローリスが受け取ったのは銃だけだった。


「試射の前に、この間銀級冒険者になった私の腕前をみてくださいよ。パーティで集まるのも久しぶりですし」


 そういってクローリスはニッと笑う。


「そうか。それじゃ見せてもらおうかな」


 開始線に立つクローリスの斜め後ろに三人で立つと、クローリスの実演が始まった。

 一発目は立射。

 そして身体を回転させて膝射の構えをとる。

 その時には次彈を装填している。

 時を置かず二発目。

 二ジィほど地面を転がり伏射で三発、四発目。


「速いな……」


「留め山に全弾命中してるよ……」


 僕とリュオネは息をのんでクローリスをみている。

 装填から狙いをつけ発射するまで三秒かかっていないんじゃないか?

 クローリスがこんなに速く動けるようになっていたなんて知らなかった。


「まだですよ!」


 地面から立ち上がったクローリスは刀を抜き打ちするように一瞬で着剣した。

 そこからクローリスは対人を想定した銃剣の動きを披露する。

 以前よりもこなれた動きをしている。

 皇軍の皆と訓練している成果が出ているんだろう。


「ザート、手合わせお願いします!」


 銃剣の先を突きつけ、クローリスが挑戦的な笑顔で立っていた。

 そんなに爽やかに求められたら、やらない訳にはいかないな。


「弾抜いてるんだろうな! 普通の槍でいくぞ!」


 こちらもリーダーとして負けるわけにはいかない。


   ――◆◇◆――


「じゃあ、おそくなったけど、改めて新式魔弾の試射を行うよ。五ジィ、十ジィ、四十ジィ、百ジィの距離に血殻の的をつくって」


 リュオネの無表情な、有無を言わさないオーダーに、僕は新兵の如く返事をして各場所に的を用意していく。

 やっぱり調子にのってクローリスと模擬戦をしていたからかな。

 けれど、戻ってみると、そこにはいつもどおりのリュオネがいた。


「では始めます!」


 クローリスがかけ声とともに、直近の的に向かって射撃する。

 的の直前で生まれたストーンショットが的全体に当たり消えていく。

 通常弾の場合、僕が血殻を加工して作った壁に当たっても魔法が発現した瞬間壁に吸収されてしまうので魔法は見えない。


「ふむ、小型化しても弾速と時限発現は上手くかみあっているな」


 この弾はショーン達に試してもらった敵の竜騎士に使う時限式対空魔弾を小型化したものだ。

 時限式対空魔弾は狙いがつけにくい相手に範囲魔法でダメージを与えようという考えで作った。

 でも、これだと魔弾を装填してから距離を一定にしなければならず、ハーピーを相手にした実験では成果を上げられなかった。


 一方、それとは別に、パーティを組んで冒険者活動をしている団員からも、銃弾の命中率が悪く、白兵戦の前に一発当てるのがせいぜい、という声が上がっていた。


 そこで時限式対空魔弾を普通の魔鉱銃の口径まで小型化したのが今回の新式魔弾だ。

 陸なら慣れれば距離に応じた魔弾を使い分けることで敵の直前で魔法を発現でき、通常の魔法に近い命中率を得られる。


 魔弾の呼び方は距離と属性で決めた。

 百ジィ手前で火魔法が発現するなら百ジィ火弾カダンだ。

 今回だと「五ジィ土弾、十ジィ風弾、四十ジィ水弾、百ジィ火弾」だ。


「やったなリュオネ。時間指定の文字を見つけてくれたおかげだ」


「何十個の試作品を鑑定して絞り込んでくれたザートのおかげだよ」


 小型化はリュオネの魔法文字解読と僕の鑑定により得られた成果だ。

 これで銃の命中率の問題は解消される。

 

「……私も、標準規格と量産方法を見つけたんですけど! ど!」


 クローリスがつめよってくる。


「そうだな。確かに、低位の土魔法使いでも作れるようにしたのはクローリスのおかげだ。ありがとう」


 感謝したとたんに笑顔になったクローリスだったけど、直後その顔がゆがんだ。


「ックチッ!」


「おいおい、オメェ風邪でもひいたんじゃないか?」


「あはは、失礼しました」


「とっとと中にはいるぞ。ストーブに薬草茶を用意してある」


 ウィールドさんの用意の良さに感謝しつつ、僕らは屋内に戻っていった。



    ――◆ 後書き ◆――



いつもお読みいただき、ありがとうございます。


今回はちょっと兵器開発サイドのエピソードでした。

新式魔弾は散弾をイメージが近いです。




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