第17話【竜騎兵隊のミーティング】
「ビーコ、お前変わったなぁ」
スズさんと時間前に屋上につくと、新しくきた竜使いの三人が竜舎の前でビーコをなでていた。
竜騎兵詰め所はクラン拠点の屋上、竜舎の隣にある。
「風属性に水属性が加わるなんて前代未聞……」
「古傷が治って能力もあがるとは、さすがリヴァイアサン、最強竜種の一部だな」
バシルの仲間は鳥竜時代のビーコを知っているらしく、リヴァイアサンの竜の種を食べて変異したビーコとの再会を喜び、しきりにほめていた。
「みんなー、ミーティングはじめるわよー」
同じく旧知のオルミナさんが呼びに行くと、三人はぞろぞろと部屋の方に入ってきた。
これからするのはさほど深刻なものじゃない。
竜騎兵隊の活動開始にともなうあいさつみたいなものだ。
僕とスズさんとオルミナさんが座るテーブルに新しく来た三人の竜使いが加わる。
「ザート君、事情はきいたわ。ほんとごめんなさい。アルバトロス全員でこのバシルには言って聞かせたから」
「いえ、オルミナさんが謝ることじゃないですよ。そもそもあの時は出張していなかったんですし」
ミーティング前に平謝りしてくるオルミナさんに、あわてて顔を上げてもらった。
「ごめんなさい。私達はやめろっていったんだけど……」
バシル以外の二人の竜使いも頭をさげる。
「カレンとボリジオは悪くないの。悪いのは何でも自分で試さなきゃ気が済まないバカ
悪いことした自覚あるの? とにらまれるバシルだったけど、本人はどこ吹く風だ。
「不愉快な思いをさせて悪かったと思ってる。でも反省はしない」
思わず苦笑してしまう。
ブレないなこの人は。
一刻一秒を争う任務中には偏屈な
「大丈夫だよな? ボリジオ」
「大丈夫です団長。”戦闘能力”だけは保証します」
スキンヘッドの褐色大男、ボリジオが微妙に心配な事をいう。
「それにバシルは妹分のオルミナには頭が上がらないですから」
うん、それは見ていればわかる。
今もオルミナさんの注意を、聞き流さずに一応きちんときいているみたいだ。
きりの良いところで手を叩いて話を終わらせる。
「じゃ、そろそろ始めようか。司会進行はいつも通りスズさんお願いします」
「はい。では、まず竜騎兵の任務について話しましょう」
そんな感じでミーティングははじまった。
まずは、今オルミナさんが抱えている伝令・輸送任務をローテーション制にして他の竜騎兵も負担する事は問題なく決まった。
それと、銀級冒険者への登録手続きも全員がまとめてすることになると伝える。
これは、伝令は第五長城壁の出城まで行く場合があるからだ。
「次は、戦争が始まってからの竜騎兵の運用についてです」
先ほどまでとは違い、場の空気に緊張が走る。
僕らは郵便配達人を雇った訳じゃ無い。
ここからが彼らの本業になる。
「皆、これを見て欲しい」
そういって僕は魔鉱銃と魔弾をとりだした。
「武器、ですね。このカシの実のようなものの先についているのは灼炎石でしょう。であれば、この長い棒はクロスボウのように灼炎石を飛ばすのではないですか?」
一発で見抜くとは、さすが知的なボリジオ。
「正解。これは今クローリス達が開発を進めている、魔鉱銃と名付けた法具のレプリカだ。ボリジオが手にしているソレは魔弾といって、弓よりも早く敵に届き、当たった瞬間に魔弾にこめられた魔法が発動する」
「それって、魔法使いじゃなくても魔法をうてるってことじゃぁ……」
「カレンの言うとおりだ。これを全団員が持てば、全員が魔法使いということになる。いや、魔法戦士か」
魔鉱銃を手に取り、一瞬で刀身を銃口に着剣した。
「これは白兵戦のときにグレイブのようにつかうためのカラクリだ」
バシルが子供のようにキラキラした目でみてくる。
口元がおもわずゆるむ。
けっこう練習したんだよこれ。
「……でもよ、これ、王国側はもってないのか?」
魔鉱獣を構えていたバシルがふと真面目な顔になってぽつりとつぶやく。
鋭いな。
「多分もっている。なぜならこの法具のレプリカはバルド教の僧兵から手に入れたからだ」
今回の王国軍のトップが宰相で、その宰相とバルド教が密接な関係にある事をみんなは知っているんだろう。
ため息をついても、驚く人はいなかった。
「どんな戦闘になるか、予想がつかない」
ボルジオの言葉で場に沈黙が訪れる。
魔弾は着弾するまでどんな魔法になるか分からない。
資源の問題でそうそう上位魔法などつかわれる事はないはずだけど、それは希望的観測というものだ。
見えない上位魔法が使われる。
そんな恐怖に耐えながら戦闘をしなければならないのだ。
「基本的な攻撃方法が分かったところで、話を竜騎兵の運用に戻しましょうか。団長」
しかしスズさんはそんな事はおかまいなしに話をすすめた。
さすがスズさん。考えさせる時間を与えない。
「そうだな。攻撃方法がわかったとしても、竜使いの運用の根幹はかわらない」
「まず敵の竜使いをつぶす、って所か?」
「そう。制空権を奪うのは竜使いしかできない。だから竜使いは魔鉱銃をつかった空対空訓練をまずしてもらう」
その後、地上の援護や敵陣の重要拠点を強襲するなど、魔鉱銃やそこから派生する特殊な銃をつかった運用の可能性について話した。
先行して訓練をしているオルミナさんの意見をたたき台にして、実現可能な戦術はなにか、ワイバーン乗りの三人が意見を出し合った。
「わりぃ、ちょっと俺の頭が限界だ」
バシルが音を上げた所で話は終了した。
「よし、じゃあこれくらいにしよう。今したような話し合いを訓練後に話し合ってほしい。竜騎兵長がまとめて、戦術と兵器開発のクローリスに持っていってやってほしい」
クローリスの悲鳴が聞こえてきそうだけど、大丈夫。
僕もリュオネもやるから。
僕は神像の右眼で鑑定をするし、リュオネは魔弾に刻む魔法文字を組むからな。
原材料や加工などの理由で、現在ブラディアで魔鉱銃を作れるのは【白狼の聖域】だけだ。
そのため、ブラディア王は銃に関する情報を欲している。
これはクランのブラディア国への大きな貢献になる。
「春までには運用ノウハウを形にしなきゃな……」
冷たい風が吹きはじめたのであわてて雨戸をしめるオルミナさん達を見ながら、すべきことを考えていた。
――◆ 後書き ◆――
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