第13話【ロター港:同期シルトが行方不明】


 僕らが第二長城壁港湾ロターに着いたのは領都をでてから三日後だった。

 初めて見た海は広大で、対岸が水平線の際にかすかに見えている。


 碧海というけれど、実際はより翠に近いという事も目で見て初めて理解できた。

 ただ、海岸にあんな物があるとはどんな書物にも書かれてなかったけど。


「リオン、あの白くて四角いものは海ではありふれたものなの?」


 海は初めてではないというリオンに聞いてみると首を振られた。


「普通はない……と思うよ。多分どこかの荷物が流されてきたんじゃ無いかな」


 ロターの港はゴツゴツとした磯がある南側が埋め立てられて、船が接岸する埠頭になっている。

 港町の建物が尽きるあたりから、北に向かって白い砂浜の海岸線が続いている。

 その白浜に、拳くらいの大きさの白いブロックが打ち上げられていた。


 手に取ってみると質感は石のようだけれど、軽石の用に軽い。試しに、隣に咲いていたローズウィップごと収納する。


「チカラ……? 鑑定結果が表示されないな」


 収納すれば何かわかるかと思ったけれど、名前しかわからなかった。


「ザート、そろそろギルドにいってみようよ。友達にも会うんでしょ?」


 馬車を降りてから少し散歩するつもりが結構歩いたみたいだ。

 リオンにちょっとあきれられてしまった。反省しよう。



   ――◆◇◆――


「えっ、行方不明!?」


 ギルド第二港支部の受付嬢に訊くと、シルトは三週間くらい前からギルドに現れていないという答えが返ってきた。

 鉄級二位まで進んでいたシルトはギルドから有望な新人と見られていた。

 そのためギルドも行方を捜していたけれど、どうもシルトが船に乗った可能性があるらしい。


 冒険者が貿易船の護衛依頼を受けられるのは銅級からだけど、船主から直接依頼を受ければ乗船する事が出来る。

 シルトは船に乗ろうと複数の船主と交渉していたらしい。

 けれど、なぜあと少しで銅級になるのに船の護衛を受けようとしていたのかがわからない。


「三週間前とは、嫌なタイミングですね……」


「ええ、例の海難事故があったのが半月前です。当然ですが、直接依頼を受けた冒険者の名前はギルドの把握する乗船記録にはありません。ギルドとしてもあまり特別扱いは出来ないため、帰還を祈るしかありません」


 イタチ獣人の受付嬢はかすかにため息をついたけれど、顔つきはあくまで平静だ。

 冒険者とはそういうもの、と言外にいっている。

 冒険者の登録抹消理由の大半は死亡ではなく、依頼の遂行中の行方不明だ。

 パーティが全滅した場合や、ちりぢりになって冒険者証が回収されなければ死亡の確認はされない。


 壁に囲まれているとはいっても、ブラディアの領地はどこも広大だし、海はそれよりもずっと広い。現実的に探す術がないのだ。


「ザート……」


 リオンの心配する声で自分の拳が硬くにぎられていたのに気づいた。

 わかっている。頭では自分はもちろん、自分の関わった同業が消えていくのが当たり前の仕事だと分かっている。

 それでも初めての経験なんだ。動揺しないほうがおかしい。


「ザートさん、事故にあった船団以外の船も同じ時期に出航しています。希望は残っていますよ」


 受付嬢の冷静な指摘で、我に返る。確かに、少し思い詰めすぎたかもしれない。


「一件、人手が必要な依頼があるんです。よろしければ受けていただけますか?」


 こちらを気遣ってか、違う話題を受付嬢がふってきた。

 第二港に数日滞在するため宿を取っていることは、さっき伝えていた。


「どんな依頼でしょうか」


「海辺にたくさん漂着している白いブロックを掃除していただきたいんです。報酬も一日で小銀貨四枚と少ない上に、ただの掃除だから皆さん受けたがらないんですよ」


 ただの掃除って、身も蓋もない事いうな。

 でも、もう宿もとっているし、何かはしていた方が気は紛れるか。


 それに掃除、ということなら書庫を使えば一瞬だな。残りを昼に拾えば大分楽はできるだろう。


 ブロック自体もちょっと気になるから夜中の人目が無いときに行ってみよう。


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