第09話【魔獣の営巣地】



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・リマキナの卵殻

・リマキナの幼生(死骸)

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「どうしたのこれ?」


「ああ、どうやらここは魔獣の営巣地だったらしい」


 言われて見ればこの穴の海側はえぐれて道のようなものが出来ている。

 それにしてもリマキナか。初めて聞く名前だな。鑑定の段階を上げてすこし詳しく見てみるか。


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リマキナ:殻を持たない貝の魔獣。凋落した民がたべる。

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 内容を確認してから排出すると、柔らかい袋のような殻と、人の腕くらいあるイカのような軟体動物の死体が大量に積み重なって出てきた。


「うっ、ちょっとグロいです……」


「うーん、シャスカが言っていた、受肉した魔獣は繁殖する、というのは本当らしいね」


 ひき気味のクローリスに対してリュオネは興味深そうに顔を近づけて臭いまで嗅いでいる。

 相変わらず何にでも興味を持つな。死んでいるから良いけどさ。

 それより気になる事が鑑定に出ていた。


「これ、メドゥーサヘッド達がたべるらしいぞ」


「メリッサが喜びそうな情報だねぇ」


 メリッサさんが狂喜乱舞する姿が容易に想像できた。


「皆、ちょっとこっちきてださい」


 皆が笑い合う中、死骸を見たくないと海を見ていたクローリスが真剣な声で呼んできた。


「どうしたクローリス?」


 他の二人と一緒に隣に並び、クローリスとおなじ様に海を眺める。

 銃剣のスキルを得ているだけあって、クローリスの目は他人よりかなり良い。

 僕達の肉眼じゃ見えないけど何かあるって事か。

 急いで遠見の魔道具を取り出し、さらに浄眼に視界を切り替える。


「かなりの魔力を持った魔獣が近づいてくるな」


 この営巣地の主、リマキナの親が戻ってきたのかも知れない。


「どうするザート? 戦う?」


 竜騎兵隊の報告にも無い魔獣だけど、この営巣地はメリッサさんのような専門家に調べてもらいたい。

 となると、ここは倒しておいた方が良さそうだ。


「戦おう。まず穴の外側で待ち受けるんだ」


 急いで坂を駆け上り、海岸とは反対側の斜面の向こうに身を隠す。

 四人がそれぞれ自分達の魔鉱銃を取り出して魔弾を込め、準備をする。


「来るぞ!」


 外洋の深い青色の海面が盛り上がり、中から現れたのは極彩色のヒダをまとった海竜らしき姿だった。

 長い首をこちらに向けて進んでくる。

 

「竜種かもしれない。魔弾は中位から試してみてくれ。殻は持っていないみたいだから土弾以外をつかっても構わない」


「じゃあ私からいきます!」


 いつも使うのとは違う、砲にちかい口径の魔鉱銃を構えたクローリスが発砲すると、一拍おいてファイアバーストが連続しておこった。


「クローリス、あれはなんだ?」


「海戦で帆を燃やすのに使った爆弾の仕組みを魔弾に応用したんです。着弾前に分裂した小さな魔弾が広い範囲で魔法を発現させます。これなら大型の魔物にも大ダメージを与えられます!」


 名前は榴弾というらしい。なるほど、たしかに榴弾に範囲魔法を組み合わせれば広範囲を攻撃できるな。


「あれ? 全然効いてないですね?」


 着弾後、敵は怒り狂ったように進むスピードを上げこちらに向かってきている。

 ついに海岸に足をつけ、その全貌を表した。

 首を持ち上げた姿はオロクシウス以上だ。体高は五ジィはあるか。

 極彩色の身体はヒダに覆われていて、ウミガメのような四枚のヒレを動かし、サイクロプスのような単眼と顎の無い口がついた首をゆっくりとめぐらせている。


「炎は駄目みたいだね。なら風はどう?」


 続いてデボラが発砲する。敵の目の前で緑の光と共にエアカッターが乱れ飛んだ。


「これも駄目⁈」


 魔獣は叫び声をあげながら毒々しい紫の体液をまき散らす。

 けれど魔獣は煙を上げてしばらく足を止めただけで、再びこちらにずるずると這うように進んできた。

 魔法に耐性があるというよりは高い再生能力を持っているのかもしれない。ということは刃物による攻撃も効果は薄いだろう。

 

「リュオネ!」


「うん! ストーンコフィン!」


 リュオネが魔獣の足元に放った土弾は着弾点を中心とした石の棺を発現させた。

 ヒュドラを倒した時に僕が作ったストーンウォールを元にリュオネが作った土弾だ。


「うそ、これも駄目⁈ ちょっと強すぎじゃない?」


 柩の向こうで先ほどと同じ煙が出たかと思うと石の壁が崩れて中から魔獣が出てきた。

 こちらを見つけたのか、速度を速めて一直線に向かってくる。


「仕方ない、今回は手段を選ばずに倒す事にする。皆は側面にいって上位魔弾で追撃できるように準備してくれ」


 目の前の魔獣を見据える。

 あれがリマキナの成体だとするなら信じがたいけど貝の魔獣という事になる。

 幸い動きはそれほど速くない。軟体動物への対処はすでに経験済みだ。



 ——八百万の鎚よ

 ——鍛えたまえ、鍛えたまえ、鍛えたまえ

 ——シキの泉より湧き出づる我が魔力もて、理の針をすすめたまえ

 ——汝、作為の発端、神器魔具の縁起なれば

 ——彼の下に沈めた黒金をもて、万物を貫く茨の槍を授けたまえ


 ——我重ねて願う

 ——汝万物の母より産み落とされし同胞はらからなれば

 ——我が意の如く、産み落とす槍に炎を宿せ

 ——汝は我 主にして僕 いずくんぞ我が意にそわぬ事あらんや


『イーロン・スリザス』


 竜の墓場でつかった万法詠唱であらかじめ埋めておいた鉄塊から敵を侵食する鉄の茨を生やす。

 さっきの石みたいに体液で溶かされないように熱で茨の周囲の肉を焼いて……と。

 魔獣は長い首を地面に打ち付けて必死に逃れようとするけれど、体内を縦横に走る鉄の茨棘がそれを許さない。


「レナトゥスの”断頭斧”!」


 暴れる魔獣の頭上に出した光る法陣から、縦横二ジィの巨大な鉄塊を撃ち出して敵の首を一気に押し切った。

 途端に鉄塊が崩れ、その向こうから大量の体液がこちらに向かって噴出してきた。


「……あぶなすぎるだろう。コイツに手は出さないように皆には言っておかなきゃな」


 前面に展開した法陣で魔獣の酸液を収納した後、それまで忘れていた息を思い切り吐き出した。


 立体法陣を展開して魔獣にかぶせる。収納する事ができて一安心だ。


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エンジェルドリス(軟竜種)の死骸

竜の種

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 これも竜種か……ティランジアは本当に竜種が多いな。




   ――◆ 後書き ◆――

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