第04話【第一異世界人はっけん】



 クローリスの絶叫を伴った指摘で、この武器が銃というものだと判明した。

 そして同時に疑問も浮かんだ。


「これってクローリスがいたバーゼル帝国では普通の武器……というわけじゃないよな?」


 悪目立ちするのでバックパックにしまった後、クローリスにきいてみた。


「当たり前ですよ。さんざん探してもなくて困ってたんですから。それで、これはどこで手に入れたんですか?」


「あー、それは、まぁ、拾った」


 出所はきくな、とばかりに小声で答える。

 こんな場所だけど、熱心なバルド教徒がいないとも限らない。


 バルド教のサイモンは六花の具足を量産するといっていた。

 この武器も量産された法具かもしれない。


 そこで僕は大事なことに気づいた。


 クローリスはなぜその物の実在を前提に話しているんだ?

 銃なんて名詞は空想ファンタジー用語でもきいたことがない。

 

「まて、クローリスはどこで”銃”って言葉を知ったんだ?」


 酔っ払いのフォークが皿とこすれる音、女冒険者の歌声とはやし立てる男達の拍手、夜店の呼び声、喧噪が急速に遠のいていく。



——クローリスがバルド教の関係者なら、名前を知っていてもおかしくない。



「ちょ、ちょっと!? なんや怖いんですけど! ウチなにかやらかしました?」


 クローリスが慌てふためく。口調もなにかおかしくなってるし。


「ザート、早とちりかもしれないし、そんな怖い顔したらだめだよ」


 そんなにか? リオンに指摘され慌てて眉間をもみほぐした。


「悪い、これを手に入れた時の事を思い出して、もしかして仲間かも、と思った」


「ふぇぇ、ろ獲品ですか。さすが異世界ですねぇ……」


 だいぶ怯えさせてしまったらしい。後ろからも複数の視線を感じる。

 場の雰囲気を悪くしたな。


「ここじゃあ話しづらいな。続きは僕達の宿で話そうか」


 ピッと鳴き声をあげてクローリスが固まってしまった。


「ザート、その言い方もどうかと思うよ」


 リオンにため息をつかれてしまった。


   ――◆◇◆―― 


 地図を頼りに、わずかに上り坂になっている中央通りを登る。

 静かな住宅地が拡がる山すそに立つ、窓が大きく切られた木造の建物が僕らの宿だった。

 宿はグランベイに来るまで護衛を請け負っていた商会に、世話をしてくれるよう頼んでおいたのだ。

 中を歩くと水夫や冒険者ではなく、交渉人や航海士のような人達とすれ違うので、それなりの宿なんだろう。


 僕の部屋は二つの部屋が縦につながった部屋だ。

 扉を開け、中に入ると手前にリビング、奥にベッドと月光が照らすバルコニーがあった。


「じゃ、そこにかけて」


 僕はバルコニーじゃなく、手前のリビングに置かれたカウチソファをクローリスにすすめた。


「外からの攻撃を警戒するなんて、やりますね」


 さっき怯えていたほどではないけれど、クローリスの笑顔に力は無い。


「たまたまだよ。仲間がいたらここに来る前に仕掛けるだろ?」


 ため息をつきながら僕とリオンも浅くソファに座った。

 バックパックから目の前のローテーブルに”銃”を置く。


「で、さっそくさっきの続きだけど、クローリスはなぜこれを”銃”と呼ぶんだ?」


 クローリスはソファに深く座った。

 小柄なので足が若干浮いている。本当に何かするつもりはないのか、観念したような顔でいる。


「実は私、異世界から来たんです」


「うん」


 真剣に、前をみすえて発された言葉にこちらがうなずくと、クローリスがびっくりしたのか、文字通り跳ねおきてこちらに向き直った。

 スプリングきいてるなぁこのソファ。


「うん、て! なに受けいれとぅ!」


 なんだかクローリスが期待した反応と違ったみたいだ。


「ハイ・エルフは異界から来た、ってバルド教の教典にも書いてあるしな。別に信じているわけじゃないけどさ。とりあえず最後まで話を聞かせてくれないか?」


 というかこの反応で”クローリスがバルド教徒”という線はなくなったな。

 安心した様子のリオンとうなずきあった。


「うわぁ、今まで隠してきたウチのストレスかえしてぇ……」


 ローテーブルに頭を預けているクローリスに続きを促すと、ゆるゆると起き上がり、目の前にあるものを指さした。


「前の世界にはこういうものを”銃”って呼んでたんです。私がこれを銃と呼ぶのは、つまり、そういうことです」


 そしてクローリスはまたローテーブルに突っ伏した。





    ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただいている方、新しく読んで下さっている方、ありがとうございます。


クローリスはおどろくとお国言葉がでるタイプです。



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