第15話【オーガー討伐——そして新技】
かすかに霧に濡れたトウヒの森の上に伸びる白い筋の上を、バスコ小隊一班から四班が行進していく。
今僕らは皇国組の実績づくりとして、オーガーの巣に向かっている。
「そういえばさ、この敷いている砂利ってどこからもってきたの?」
道の具合を確かめながら、行進の最後尾をリオンと歩いている。
「グランドル領のタリム川の底。子爵代理の許可をもらってたっぷりもらってきたよ。当分公共工事の資材には困らないな」
「えー、グランドルまで行くなら一緒に連れて行ってくれれば良かったのに」
新調したインパネス型の外套を着たリオンが軽く頬をふくらませてこちらをにらんでくる。
「その時はコトガネ様の講義の最中だったから。途中で中断してもらうわけにいかないだろ?」
「うーん、確かに中断されたらしばらくむくれているかも。コトガネ様おじいちゃんなのに子供っぽい所あるからね」
コトガネ様は基本スケルトンなので特注の全身革鎧を着てもらっているけれど、感情が行動に現れるのでわかりやすいのだ。
「ま、今日は久しぶりのパーティ行動だ。連携の取り方がなまってないか確認しながらいこう」
「そうしたいんだけど、みんなが敵を残してくれないんだよね」
リオンの恨みがましい視線の先ではバスコ小隊三班が森の巨鳥ブッシュルフを倒して勝ちどきを上げている。
ちなみに、”バスコ小隊三班”がパーティ名だ。
みんなは姫様に良い所を見せようと頑張っているんだけど、結果的にそれが裏目にでている。
そうこうしているうちに大きな円型の広場にぶつかった。
ここはオーガーの縄張りの外にあって、突撃する前に最後の準備するためにつくった休憩所だ。
ここから先は普通の遠征のように森の中を突っ切っていく。
打ち合わせをするとバスコさんに伝えると、各パーティのリーダーが中央に集まった。
ここを整備したときに、広場の中央に平らな石のテーブルを置いた。
地上と空の両方から確認した周辺の地図を彫り込んでおいたので、僕がいない時も皆に使ってもらえるだろう。
「地図にある通り、ここから北西に進んだ先に岩肌が露出した崖と川がある。そこはオーガーの見張りがいるからそこから先がオーガーの巣だ。各班は散開して討伐にあたってほしい」
各リーダーが地図を見ながらそれぞれ向かう方向を打ちあわせしている。
さすが軍人だけあって、地形の有利不利、退路の確保など抜かりがない。
個々の戦闘力は位階の高い冒険者に劣っても、こういうノウハウを持っている所が軍人の強みだな。
二班の班長が手を上げたので話を聞く。
「オーガーは討伐数が多いほどギルドの評価は上がるのですか?」
「確かに上がるけど、せん滅が目的じゃないからな。一体を倒したら凝血石を手に入れてもどって欲しい。遭遇した時は倒して良いけど、刈り尽くしたら後続の班が困るだろう?」
テーブルを囲むメンバーから笑いが起こる。だいぶ皇国組のみんなとも打ち解けてきた。
――◆ ◇ ◆――
二・五ジィの身長に肥大した骨格、桃色の肌をした魔物が岩を手に持ち打ち付けてくる。
「ヒシは楯を保持して右後方へさがれ! 左翼、フブキとミカゲは側面から腕と足を狙え!」
三班がぎりぎりの所でオーガーを仕留め、全部のパーティの討伐が終わった。
彼らと共に広場に戻ると、座り込んでいた各パーティのリーダーが立ち上がり僕と副官ポジションのバスコに報告してくる。
一パーティに一人か二人は攻撃をまともに食らった者が出たけれど、他の者がカバーし、負傷もポーションで回復できる程度に収まったので問題はないみたいだ。
「よし、目標達成。これより野営地にもどるぞ!」
さっきまで死闘をしていた三班がうめき声を上げるが反論はしない。
一番疲労している三班を真ん中に、素早く隊列を組んで道を戻っていく。
進むのが来た時より早い。
空を見ると、少し予定より押しているから野営地まで急ぐ必要があるから、先頭のバスコさんがペースを上げているんだろう。
「ザート、気づいてる?」
「ああ、五体だな。そっちの端から一体ずつ片付けていこう」
まず手前に忍び寄っていたオーガーをリオンが突き伏せた。
前に見たときより鮮やかに逆鉾術を操っているのはコトガネ様との修行の成果だろう。
不意打ちをするつもりが逆に先制され、連携が乱れた隙をついて後続のオーガーに向かっていく。
大ぶりの拳とすれ違うようにして片手曲刀で切り上げ、勢いのまま足の腱を切って次へ。
岩を投げようとしてきたので”飛び石”で真上に飛び上がり、無理に岩を投げようとしている相手の顔面をホウライ刀で断ち割る。
こちらに向かう一体はリオンに任せ、逃げるオーガーに
修行して強くなったのはリオンだけじゃない。
魔素だまりで魔砂を延々回収した結果をみせてやろう。
『双璧!』
二枚の対となった大楯から飛び出した岩に挟まれ、オーガーが肉塊と化した。
これなら森や沼地など足場の悪い所でも衝撃を逃さず相手に伝えられる。
「ザート、とどめさしといたよ。あとこれ凝血石ね」
「ああ、ありがとう。お疲れ様」
オーガーの凝血石は、売ればなかなか良い収入になるんだよな。
そんな事を話しながら皆の所に戻ると、バスコさん達が抜き身をさげたまま棒立ちしていた。
帰ってからも皆が距離を置くのでバスコさんに相談したら、僕の事をほぼ後衛だと思っていたので驚いたという話だった。
それと、最後の『双璧』はエグいのでやる時はあらかじめ言うように頼まれてしまった。
後発組と行く時は配慮するようにしよう。
――◆ 後書き ◆――
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