第69話【コロウ亭最終日(2/3)】


 美味さで意識が飛んで、そこからは無礼講だった。

 テンションが上がったまま、ジョージさん達と乾杯して雑談を始める。

 ジョージさんはジョージさんだ。子爵が自分でそう呼べといったので問題ない。


「リズ、マーサ、エンツォ、フィオ……ここグランドル領にはクラン時代のメンバーがたくさんいるよ。貴族が領地がえする時は、懇意にしている商人とか職人がついていったりするけど、冒険者上がりな私の場合はクランメンバーが来てくれたんだよ」


 目を潤ませながら語るジョージさん。酔うと涙腺が緩むタイプだった。

 ジョージさんは彼のクランが何年か前に大きな功績を挙げたとかで、功績に報いる形でグランドル領を与えられたらしい。


 元々貴族の三男だったジョージさんは為政者として優秀らしく、リズさんが中心となって進めているギルドの福祉改善策も順調らしい。

 ジョージさん発案だったんだね、受付嬢による人生設計アドバイス。


「へーすごいんですね! マーサさんも何か担当してるんですか?」


「あ、ああいや、マーサは……現場主義だから」


 リオンの不用意発言にジョージさんのジョッキを持つ手が震える。

 現場主義、というか現場しか担当していないと僕はリズさんからきいていた。


 マーサさん、古城掃討戦の後、自分を冒険者に戻せって相当ごねてたよな……

 絶好の稼ぎ時だったのに魔素だまりに入るのを止められた! って泣きつかれたけど、あなたギルド職員側なんだからそりゃそうでしょ、としか言えない。


「リズさん、マーサさんは?」


 ジョージさんがいるんだから旧クランメンバーは集まりそうなものだけど……

 二人の表情が暗くなっていく。


「あ。ヤバ、ジョージ……」

「これは、いかんな。急いでギルドに戻ろう」


 さては……マーサさん置いてきたな。


 リズさんがカウンターから出てきた所、食堂の喧噪が静まると同時に何かが聞こえてきた。


「うっ……ひっぐ……うぇぇ……」


 このタイミングで聞こえる童女の泣き声。

 振り返りたくないなー、嫌だなーと思いながら後ろを見ると案の定。

 そこには棒立ちでなきじゃくるマーサさんがいた。

 後ろにはオコなエンツォ夫妻。

 特にフィオさんがかつてないほど激オコだ。


「リズ! あなた幹部室を素通りしてウチに来たでしょ!」


「俺たちが余った薬草を置きにいったら半泣きで受付に座ってたぞ?」


 マーサさん、かくれんぼで一人残された鬼役の心境だろうな。きついよねアレ。

 でもマーサさんまって? いくら辛くてもガチ泣きはだめでしょ。それ少女じゃなくて女児でしょ。


 怒る母フィオ、それを後ろから支援する父エンツォ。

 うなだれる子爵と秘書。

 かわいそうな自分の状況でさらに追い込まれるギルドマスターはもはや引っ込み着かない状況におちいっている。

 固唾をのんで見守るスタッフと客。

 どうする、どうするのこれ?


 そんなことを考えていたら、僕の横でエビを食べていた天使がホールに舞い降りた。


「マーサさん、もしかして、私たちと二度と会えなくなるから寂しかった? それなら私も一緒だよ。薬草摘みばかりしていた私に……ザートとのパーティ結成を勧めてくれたから……っ、ありがとう、けどやっぱり寂しいよっ!」


 ここでリオンが駆け寄る。おぼつかない足取りで転びそうになる幼女。抱きしめるイケメン。


 観客から徐々に拍手が鳴り響き、歓声に包まれる。

 すばらしい。でもナニコレ。


(痛った!)


 突然の痛みが脇腹に走る。

 いつのまにか隣にいたリズさんがつねってきた。

 え? なに? お前もパーティなんだからこの波に乗れ? ちょっ!


 有無をいわせない力が両脇から加わり、身体がおよぐ。乗るしかないのかっ!


 ガッ。


「俺もっ……寂しいッ!」


「寂しいかザート! あたしもだ!」


 ちょっと、リオンは素だとして、幼……マーサさん演技わすれてない?

 置いて行かれた寂しさが別れの寂しさに上書きされてる?

 まあよし、それでいい!

 それでいいからもう離れていい?


 頭を下げたままカウンターの方をちらっとみる。

 リズさんが首を振っていた。

 その手振りは? まだだめ?

 おいこら、元々あんたらがしくじったせいだろ……え? 何その手……狐?


 こっそり目を反対に向けるとバカップルが寄り添いながら涙を拭っていた。

















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