第39話【休暇:竜の巣の秋】


 空を見上げている。

 かざりのたびに枯葉が縦穴にふりそそぎ、先に来た枯葉達と静かにささやきあっていた。


 縦穴には誰もいない。

 岩の回廊からながめる林はちょっとした中庭だ。

 季節が移ろい彩りを鮮やかにした草木が目に優しくうつる。


——アルバトロスと一緒にしばらく休暇をとってください。


 連合領軍との小競り合いの後、スズさんに強制的に休暇を取るように言われた。

 なので、しばらく働きづめだったアルバトロスと一緒に竜の巣で羽根を伸ばしていたのだ。


 リュオネはどうしているんだろう。

 第一・第七小隊と難民団はもうとっくにブラディアについているだろうから、もしかしたら十字街で難民受け入れまでしているかもしれないな。


 こうしていると自分だけ休んでいると、何か落ち着かない。

 まあ、それでもスズさんがあれだけ強く休めと言ってきたのだから休むべきだったろう。


「よう、二日酔いか?」


 枯葉を踏む音とともにショーンがあくびをしながらやってきた。

 今起きてきたらしく、故郷の民族衣らしい白くて長いワンピース型のシャツのままだ。


「それはそっちだろ? 昨晩もクローリスに教えてもらった熱いホウライ酒をどれだけのんだんだ」


「あんなの二日酔いする量じゃねぇよ」


 ショーンも一緒に休暇を取っているからけっこう休んでる。

 というか、あくびの止まらない顔を見ればわかるとおり、だらけている。


 用意したコップに水を入れると一息に飲んで、おかわりを要求してきた。

 やっぱり二日酔いじゃないか。


「……なに考えてたんだ?」


 対面に座ったショーンが真面目な顔で聞いてきた。


 ショーン達には合流した次の日くらいに、知り合いを殺したことを伝えていた。

 僕の心にも知らずによどみがたまっていたんだろう。

 それを聞いた二人は、僕の荒んだ様子に納得したらしい。

 荒事になれた冒険者でも、顔見知りを殺した後は念のため休むらしい。

 普段と違う調子で魔獣に挑んでミスをするのを避けるためだ。


 けれど、それを言うんだったら僕はもう復調している。

 家族の事も考えずにいられている。

 今考えていたのは別な事だ。


「休暇が長い事。リュオネが一人で大丈夫かなと思って」


 第一・第七小隊がブラディアに入っているなら、あの赤髪のハンナの処分もすでに言い渡されているだろう。

 僕が矢の軌道をそらしたからいいけど、公爵家の人間に弓を引いた事実は不問にはできないはずだ。

 リュオネが候主として、非情な処分を申し渡してつらい思いをしてないだろうか。

 

 そんな心配をショーンに話すと、笑い声と、直後の頭痛による悲鳴が返ってきた。


「いてて……、いや、大丈夫だって。クランリーダーのお前が帰るまで処分の決定はされねぇよ。元々、近いうちにお前とリュオネのどちらかに長めの休暇を取らせる事は決まってたんだってよ。今はやることがわんさかあるから二人同時に休ましてやれなくて申し訳ねぇってスズさんもいってたぜ」


 酔い覚ましに庭から採ってきたトヤシの実をつまむショーンが事情を話してくれた。

 ニヤニヤとした笑いにイラッとしたけど。


「そうか、分かった。深い意味がないなら、早めに帰らせてくれってオルミナさんに伝言を頼もう」


 もう十分すぎるほど休みは取った。

 僕が休暇を切り上げればそれだけリュオネが早く休暇をとれるだろう。

 そう思い、早めに帰ると告げると、とたんにショーンが慌て始めた。


「うぇ、もう帰るのかよ! もう少し羽伸ばそうぜ。ほれ、秋の味覚ってのもまだあるしよ」


 庭の木にからまっていたマローネのつるから実をむしり、引っ張ったパジャマの上に投げこんでいく。


「……ショーンはいつまで休みをとれるんだ?」


「あー、うん。オルミナにはお前が帰るまではいて良いって言われててな……ハハッ」


 収穫の手をとめたショーンが気まずそうに笑った。


「なるほど? じゃあオルミナさんが来たら帰るから準備しとこうか」


 僕は特に準備はいらないけど、ショーンは散らかった部屋の掃除とかがあるだろう。

 なにかわめいているけど……スズさんの許可? 知りませんね。





    ――◆ 後書き ◆――


いつもお読みいただき、ありがとうございます。


戦闘シーンが終わって、ちょっとした休暇です。



★評価、フォロー、♥応援をぜひお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る