第33話【ギルドでの生活と沈没船調査結果】
「クラン設立において、登録すべき拠点は二つ以上必要……、ザート、貸してもらった資料のなかにブラディア各地の不動産相場表があったよね?」
ギルドの軽作業工房で依頼を受けた魔獣よけを作っていると、生産クラン設立の手引き書を読み込んでいたリオンが顔をあげてきいてきた。
「ああ、あったね。はい」
「ありがと」
書庫から相場表の入ったファイルを取り出してリオンに渡す。
今僕らはギルドの軽作業をする工房で寝泊まりさせてもらっている。
なぜかといえば、ホウライ料理屋での一件以来、グランベイの獣人の間に、ホウライの候主(※令嬢)がいるという噂が広まり、リオンが身を隠さざるを得なくなったからだ。
ギルドは訳ありの冒険者でも、加盟者である以上保護する義務を持つので、今回はそれに頼らせてもらった。
今日のリオンの服装はライトブラウンのコルセットスカートだ。
尻尾がでるようにつくられた、後ろの編み上げ部分を見るとグランドルでお世話になった狐獣人のフィオさんを思い出した。元気にしてるだろうか。
「なにかな?」
全体が視界に入る作業台に戻りながら考え事をしていると、リオンが口元を相場表で隠しながらみつめていた。
どことなく何かを期待するようなリナルグリーンの瞳は、以前は茶色がかっていたし、青みがかった白銀のショートカットの髪は以前は灰色だった。
当然ピンと立った耳と、髪と同じく少しくせっ毛の尻尾も以前はなかったものだ。
「うん、綺麗な髪だと思ってつい見入ってた。やっぱりまだ慣れないな」
正直に答えると後ろの白銀色の尻尾がふぁさふぁさと揺れる。なにか迷っているような仕草だ。
「あまりみないで欲しいよ。こっちもこの姿は久しぶりで、見られ慣れてないし、ザートには初めて見られているわけだし……」
そのまま相場表で顔の全部をかくしてしまう。
へたれた耳だけがちょこんと見えていた。
すこし気恥ずかしくなって、だまって作業を続けていると、クローリスが下の階から戻ってきた。
「リオンの変装用魔道具はどうなってるんですか!? 技術体系が独特でわかりません!」
リオンがつけていた首飾りを別室の視力強化の魔道具で見ていたんだろう。クローリスの目つきが悪くなっている。
自分でこわしたんだから直すと意気込んでいたけれど、さすがに別体系の道具の理解は簡単にはいかないようだ。
「こっちの技術で同じ効果を持つ魔道具はできないのか?」
机につっぷすクローリスの手元に書庫から出したお茶をおいておく。
「髪色はもちろん変えられますけど、耳と尻尾を消す光学迷彩じみた機能のしくみがわかりません。尻尾はに至っては異次元収納すらしてたようですし、むずかしいですね……。そうだ、沈没船から回収したものに似たような魔道具はありませんか?」
コウガクメイサイとはなんだ? クローリスは時々異世界単語をつかう。
心の中でぼやきつつ、差し出された小さな箱に収められた首飾りを手に取ってみる。
一見ただの銀のアクセサリーに見えるけれど、手に乗せた重さから銀、金以上の重さを持つ魔鉱が材料に使われているとわかる。
「まだ防水箱を全部開けていないからわからないけど、期待はできないな」
朝はタブレットを操作し続けて、回収品を一山だしてはリオンにみてもらい、言われた通りに選別していた。
前から博識だったり審美眼があったり、ただ者じゃないと思ってたけど、リオンが異国の皇族だとはおもわなかったよ。
もう一度回収品を見ておくか。
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【薬草】
マオ
カコン
ガンゾ
イヨカク
センキュウ
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ティルクの薬の原料が何十種類もあって驚いた。リオンの話では練丹術という錬金術に似たスキルを持つ薬師がつかうものらしい。
薬師がいれば半分売って、使う機会があれば調合してもらうことにしている。
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【テイ】
ホウライテイ
セン
ギョール
カマリ
……
クァンテイ
テカイ
シセ
リサ
……
テンジクテイ
タージュ
スーリ
シキ
……
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詳細鑑定をしても味がわからないので、これも薬と同じく詳しい人に少し譲ろうかと思う。
僕の知っている人だとレーマさんなんだけど、今テイに飢えてそうだから全部買うとか言われそうで怖いな。
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【顔料】
青
ラピス貝
赤
ケレメス
紫
アキヤマ
黄
ウコン
緑
シヨウ
黒
ビンロウ
白
ボレ
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用途は明らかではないけれど、他にも色々な顔料が瓶に詰められていた。
リオンが目の色を変えて喜んでいたのできっと売ることはないだろう。
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【香料】
ラ
カラ
ダラ
ソラ
ナバ
ナカ
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これは、どうしようかな。
香りの違いを楽しむものとリオンに勧められたけど、違いがあまりわからなかった。
狼獣人と中つ人の違いだろうか……
これもリオンやティルク人が楽しむ用にとっておくか。
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【火薬】
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これに興味を示したのは意外にもクローリスだった。
元の世界で銃の弾を撃ち出していたのが火薬を進化させたものらしい。
ティルクからわざわざ持っていているんだから、何かには使うんだろうけど、多分クローリスの魔道具の材料になるだろう。
防水壺に入っていたのは以上だった。
防水箱は最後まであけていないけど、どうも箱に入っているのは美術品らしい。
マザーの居館で見かけた陶磁器があったから、きっと貴族向けの交易品なんだろう。
貴族への贈り物なんかにいいかもしれない。
貨幣の類いは兵が脱出する際に持って行ったらしく、全く無かった。
後は武器だ。
意外なほど大量に残っていたから、船で使うものじゃなく、駐屯軍で使うはずだったものだろう。
浸水した箱が少しあるけど、十分使える。
作業が一段落したのでタブレットをしまうと、リオンとクローリスが荷物を手にしてこちらにやってきた。
「魔道具の作成道具をまとめたので収納してください」
「ザート、回収品は整理し終わった?」
「うん、だいたいね」
クローリスから道具を受け取り書庫にしまう。
「結局、趣味の品が充実した以外で一番の収穫は武器かな。クランをつくるなら装備はいくらあって困るものじゃないからね」
でもクランは今すぐ設立するわけじゃない。
拠点を借りるまで当分書庫に塩漬けだろう。
三人で話した結果、ジョアンの書庫はパーティ内の秘密にして、クランメンバーには教えないことにした。
代わりと言ってはなんだけど、ティルク人保護の方針に賛同するなら、わけありのソロ冒険者でもはいれるようにする予定だ。
依頼達成より信用の方が重要だから、人物はみさせてもらうけど。
—— コンコンコン。
「こーんにーちはー」
ドアの向こうから声がしたので開けに行く。
開けると、そこにはオルミナさんが手を振って笑っていた。
「ここにずっとこもってるってクロウちゃんからきいて来ちゃった。みんなでちょっと空を飛びにいかない?」
海に続いて今度は空か。アルバトロスはちょっと自由すぎないか?
――◆ ◇ ◆――
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