第34話【空を飛ぶ仕事】


 明紫色の髪をしたオルミナさんは、リオンよりは小さいけれど、女性らしいスタイルで大人な雰囲気を漂わせている人だ。

 今日は冒険者らしい革製の軽戦士装備をつけている。

 革鎧は魔術士でも定番の装備だから不思議ではないけれど、オルミナさんの着ている鎧は要所要所に羽のようなものがついている。

 似合ってるし、適温を保つ付与はかけられているんだろうけど、やっぱり見た目が暑そうだ。


「ザート、せっかくだし行こうよ。気晴らしは必要だし」


「そうよー、ずっと籠もりっきりなのは身体に悪い、し……?」


 オルミナさんが僕の後ろを見るなり、目を見開いて固まってしまった。

 後ろの男性陣二人も同じ様に動けずにいる。


「いいのかリオン?」


「うん、クロウに用意してもらったアリアベールをかぶれば髪まで隠れるから。大通りを歩く程度なら平気だよ」


 振りかえるとリオンが耳も髪もそのままの姿で立っていた。

 今は大騒ぎになるからギルド上階に隠れているけど、時期がくれば素の銀髪の獣人姿で外出する予定でいたから、知り合いのアルバトロスには一足先にみせるくらい問題は無い、ということだろう。


「か、かわいいー! もしかして、街で噂になってる皇国のお姫様って、リオンちゃんだったの?」


 石化がとけたように動き出したオルミナさんが目を輝かせながらリオンに飛びついてきた。

 リオンの耳に触ろうとぴょんぴょん跳びはねるので羽やら胸やらが、わっさわさ揺れている。

 はっきり言えば目に毒だ。


「まあ、わけあって、隠してました。いずれ公表しますけど、もうしばらくは他言無用でおねがいしますね」


 かろうじて立ち直ったショーンさん達に口止めをしておく。


「わかった。リーダーとして、周りにはばらさないと約束する。今回の行き先は長城壁内の畑だし、人目にはつかないと思うから安心してくれ」


 ショーンが場所についても請け合ってくれたので大丈夫だろう。

 それにしても畑まで何をしに行くんだ?

 僕の疑問を感じ取ったのかショーンがニヤリと笑っていった。


「オルミナが遊びに、なんていってたけど、ちゃんとした仕事だ。今お前等が作ってたそれをつかうんだよ」


 ショーンが指さす先にはさっきまで作っていた魔獣よけの薬があった。


「お前等は多分知らんだろうが、これくらいの季節には畑に魔獣よけをばらまくんだ。作物を収穫するときに一々魔獣に邪魔されたくないからな」


 デニスが追加で説明してくれた。

 確かに初耳だ。

 農夫だって元冒険者なんだから倒しながらやるだろうと思ってた。

 たくさんいる小さい魔獣がちょこちょこ邪魔してきたらうっとうしいだろう。


「でも、空からばらまくんですよね? どうやって空に行くんですか?」


「それは現場に行ったら見せるから、楽しみにしててね?」


 クローリスの問いかけに、オルミナさんがいたずらっぽく笑った。



    ――◆ ◇ ◆――


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