第60話【水辺の野営地】

 登ったばかりの銀の月が湖水を照らし、僕らがいる野営地まで橋をかけている。

 静かな夜風に揺れる光を横目にみつつ、鍋を前に料理の下ごしらえをする。


 魔境を解放した後、リオンに法具を使う所をみられた僕は、開き直って古城のがれきをまるごと収納した。

 なぜなら巨人達の凝血石はがれきの中にあったからだ。それらを回収せずに帰るなんてありえない。

 新たに拡がった四ジィ×四ジィの大楯でがれきの山を消し去っていくのは気持ちよかった。

 リオンがあぜんとしていたけど、こうなった以上慣れてもらわなきゃね。


 その後、僕らは古城を後にした。

 すでに魔境は解放されていたので、ボス戦でもつかった空中歩行術”飛び石”を使って戦闘をさけて馬車の方面へと跳んだ。

 ちなみに「飛び石」という名はリオンが僕の背中の上で考えた。大げさだと思ったけど、”空を跳ぶときのアレ”とか言わずにすむので採用した。


 本来の依頼である堤防の補修は、空中から確認できた所から行い、最後に馬車をとめた堤防を補修して終えた。


 もう馬車で移動する必要もないので、野営道具も馬車ごと収納した。直接馬で駆けて、今いる野営地まで戻ってきて今にいたる。

 

 今回の依頼ではリオンの色々な事を知った。


 例えばストイック。


 リオンは料理ができない。

 それは良い。彼女が(多分)育ちが良いので、包丁を握ったことも無いんだろう。


 でも、ブートキャンプでは最低限の冒険者料理を覚える講座もあったにも関わらず、彼女はおぼえなかったらしい。

 古城にむかう際も、「遠征時だからこそ鍛えるべき」といって、ミレットと水だけを取り出してきた。

 軍隊が強行軍や敗走する時にする食事は勘弁だ。

 料理が面倒というわけでは無いというので、今後の事も考え僕が教えられる事は教えるつもりだ。今は他の作業をしているけど。


 はい、ツァンの小口切り終了、鍋に投入して火から下ろす。



「リオン、夕食できたよ」


「ありがとう、今行くよ」


 幌馬車に向かって呼びかけると、中で金属をまとめる音と、ブーツで床を叩く音がなり、馬車の影からリオンが表れた。


「拾い物の仕分けはできた?」


「うん、ザートが書庫で大体まとめてくれたおかげで楽に終わったよ。いただきます」


 スープの椀を受け取って目で見て、匂いを嗅いで、かき回して、となかなか食べないけれど、これは初めてのものを食べる時の儀式だそうだ。


 何事にも興味をもつからか、彼女は物の目利きが出来る。

 スキルとしての鑑定ではないけれど、物の善し悪しが感覚でわかるそうだ。

 さっき書庫からナイフの山を取り出して、どれがギルドからの借り物か困っていた所、一発で見つけてくれた。

 ついでに値打ち物のナイフも見つけてくれたので、そういうものを鍛冶屋で鋳つぶしてしまう前により分けてもらっていたのだ。


「んっ」


「何?」


「酸っぱいねこのスープ。疲れが取れそう」


 興味深そうに椀の中を見ている。


「酸っぱい花のソミアを入れてるからね。豆に貝柱出汁、そこで釣ったモストラウトの身、仕上げはツァンをひとつまみ。今日は色々あって疲れたから、余計酸っぱく感じるな」


 疲れた時は食欲も落ちる。消化するにも体力を消費するからだ。だから消化によくて食欲がでる酸っぱい料理にした。体調管理も冒険では重要だ。


…………


 目元を緩ませたリオンが再びスープに口を付け、食事が再開する。

 会話が途切れ、水鳥のメアヘロンの鳴き声がたまに聞こえてくる他に音はない。












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