第55話【古城突入準備】


「ザート、すごいよこの剣! スキル無しで君みたいに理想の動きができるなんて!」


 駆け寄ってきたリオンが肩や背中を遠慮無く叩いてくる。

 いや、すごいのはリオンの素の剣技だと思う。炎刃の効果だって、元の技術や知識が無ければ増幅できないんだから。


「これだったら古城のボスとだって戦えるはず――、え?」


 古城に向かう途中。リオンがしきりにしゃべっている最中に、パチッというたき火で薪が爆ぜたような音がした。

 リオンの手の中で精霊の炎刃が、刀身を白から黒へと色を変える。


「この武器の特性でね。使っている間は使用者の能力が増幅されるけど、一定時間経つと休眠状態に入るんだ。復活までには大体一時間くらいかな。使う時間は魔力の込め方で前後するみたいだよ」


 炎刃の仕様を説明すると、リオンの犬耳がすっかり伏せてしまった。もちろん僕のなかで。


「それじゃあここぞ、という時しか使えないのか。古城に向かうまでは今まで通りフレイルで戦うしかないね」


 リオンが残念そうにケースに炎刃をしまおうとするのととどめる。

 

「いや、普通の小ぶりなショートソードとしてなら十分に使えるよ。それまでは僕がメインで戦うし、隠し玉だってある。さっきの沼の巨人達に追いつかれる前に先に進もう」


 それに、さっきの巨人達が堤防を越えてあふれれば湖水地方で探索する鉄級冒険者に被害がでる。のんびりしている時間はない。


 歩きながら書庫を使って魔砂を回収すると同時に、その魔砂を使ってファイアを書庫内にためていく。

 そして時々出てくる魔獣は強化した身体で倒しつつ進む。

 我ながら手品じみた行軍スタイルだ。身体強化と魔力操作の練度あっての芸当だな。


 川底は石畳に変わり、両側には胸壁が並ぶようになって、行く先には古城の入り口が見えている。

 つまりここは長城壁の上だ。もう古城のエリアに入っているらしい。


「ザート! 古城の門から巨人が出てきた!」


 二体の巨人が槍を持って此方に向かってくる。腐りかけたレザーアーマーに水ぶくれしたような身体を押し込めている様子は本当に門番みたいだ。


『ファイア・アロー・デクリア!』


 十本の火矢を一体に集中させたけれど、さっきと違って即死しなかった。

 もう一体が槍を突き出してきたのでバックラーを使いはじく。


『向こうはまかせて!』


 リオンが脇をすり抜けてとどめをさしにいったので、一対一になる。

 槍と数合打ち合い、懐に入ってから手首を切って倒した。


「川底の奴らより強いけど、やっぱり沼の巨人は火に弱いみたいだ。油断せずに行こう」


「そのセリフは油断しそうになったから言える言葉なわけで……沼の巨人を雑魚扱いするザートも大概だね……」


 生き残るのが最優先だ。あまり自重もしていられない。

 とにかく、後ろから聞こえるリオンの乾いた笑いは聞こえないふりをする。


「これで古城のボスを倒したらダンジョン攻略になるんだよね。またリズさんに詰め寄られるのかな……」


 骨で肩をトントンしているリズさんの顔が浮かんだ。

 こっちも聞こえないふりをさせていただこう。




 


  




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