第23話【倉庫にて——戦闘と欺瞞】


「一族郎党皆殺し」


 僕の口からでた言葉にミラディが顔をゆがませ再び刃を振りかざしてきた。


 短剣の間合いの外から斬りかかってきたのを避ける。

 風の刃を剣にまとわせる高位魔法のウィンドエッジだ。

 強力だけれど、見破るのはたやすい。

 剣の技能がそれなりにあれば、刃がみえなくても体捌きで相手の狙いがわかるからだ。


『ミスト』


 下位魔法のミストで風の流れを可視化してしまえばアドバンテージは消える。

 彼女の場合、エッジの長さは一ジィといった所だ。魔力量はそこまで多くない。


「血を見る事は、予想できたんじゃないですか?」


 やはり僕は冷静じゃないのだろう。

 曲刀とバックラーで刃をさばきながら、とがめるような言葉をなげかけてしまう。


「黙りなさい! 私だってあんな事望んでいなかった! けれど血族を守るためなんて矮小な目的のため、世界を救うことができる法具を手放さなかったあの人達が悪いのです!」

 

 ミラディがバックステップで間合いをとる。

 言葉とは裏腹に、短剣を振るう腕はふるえ、前髪にかくされた顔は怒りにみちていた。


 自分に忠実なはずの者達が反抗した時の事を思い出したんだろう。

 世界を救うなんて大義に心酔していればなおさら許せなかったに違いない。


「サイモンさん、その法具をすべて手に入れれば、世界が救えるんですか?」


 構えを解かず、目だけ向けてサイモンに問いかける。


「魔素を吸収する機能をもった六花の具足を量産できれば間違いなく良い方向に向かいますよ」


 余裕の表情でこちらの戦いを見ていたサイモンは肩をすくめて苦笑した。


「凝血石のため魔獣を討伐する今のシステムは不完全です。冒険者は魔素にさらされ短期間しか活動できない。せっかく強くなっても大規模な討伐に失敗すれば一気に数を減らしてしまう。冒険者の貴方ならわかるでしょう?」


 海難事故で銅級が大量死した件の事をいっているのか。

 でも彼がなげいているのは冒険者の命のはかなさじゃない。


「我々は危険で不安定な魔素の供給を変えたいのです。量産した六花の具足をまとえば、冒険者は魔素に身体をおかされません。さらにスキルにたよらず強化された身体で魔獣を討伐できます。凝血石の供給量は増加し、安定するのですよ」


 たからかにうたい上げるサイモンだけど、世界を救うか、という質問に答えていない。

 凝血石が増えて世の中が便利になろうと、”世界を救う”という言葉にはつながらない。


「その甲冑はバルト教徒しかつかえないでしょう? バルド教徒じゃない冒険者はみんな失業してしまいますね」


 あえて断定的にいう。

 ミラディがつい漏らした”世界を救う”という言葉は、凝血石の安定というサイモンの言葉通りの意味じゃない。

 エネルギー供給の独占による異教徒の排斥の事だろう。

 鎧一つで解決しなくても、最終的に凝血石の供給を独占できるようになれば、ティランジア地方以外のバーゼル帝国などほかの地方の国家も従えることができる。


「バルド教徒が凝血石を独占するつもりですね」


 はぐらかされる前に核心に踏み込んだ。


 サイモンの笑みから余裕が消える。

 静かな殺気が漂う中、微笑んだ口元の表す意味が、苦笑から嗜虐へと変わっていく。

 それが答えだ。


「そうかも知れませんね。まあ、あなたは失業する前に死ぬかもしれませんが」


 嗜虐の笑みとともにサイモンが片手を上げる。すると背後の闇からサイモンの灯りに照らされた泥色の甲冑の一団が現れた。

 形は六花の具足に似ている。中身はさっきの部下達だろう。


「これね、形は似せていますが、肝心の機能が弱いんです。やはりすべてそろったオリジナルの魔力循環を解析しないといけないようなんですよ。そのためにはガレス君のガントレットが必要なんです。腕ごと、もぎりとってでもね」


 そしてサイモンの片腕が、攻撃目標を捉えた。

 











    ――◆ 後書き ◆――


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